胸の大きい女性に向けた通勤服「ハート・クローゼット」が話題だ。イラスト製作等の会社を経営する女性起業家が自身の経験を踏まえて始めたもので、クラウドファンディングでプロジェクトを発表したところ、わずか2時間でチケットは完売、この間のメディア掲載は内外で200社を超えた。ありそうでなかった隙間市場に参入した同社は、秋以降、アイテムの拡大に力を入れるとともにECサイトの開発を急ぐ。
■本人にしか分からないストレス
同ブランドを運営する122(東京品川区、電話03・5447・8553)代表の黒澤美寿希さんは、中学生から胸が大きくなり、高校生の頃にはGカップになった。毎日着用しなければならないセーラー服を着ると生地が引っ張られ、おへそが見えたりして困っていたという。
大人になってからも、着られる服はチューブトップなど露出の多い服しかなく、派手な性格とみられることが多かった。「キャンキャン世代なので女子アナが着るようなアンサンブルを着たかったのですが、ボタンが飛んだり変な型がついたりして、一度着たら使い物にならなくなりました」。
起業してからはカジュアルな格好ばかりするわけにもいかず、相変わらず服選びには苦労していた。普通サイズのシャツやジャケットを着用すると、「胸に生地が引っ張られ、息苦しかったり、猫背になったり」。太っていないのにそう見られるのもストレスだったという。
「自分のように困っている女性は多いはず」。自身の会社の運営も落ち着いてきたこともあり、一念発起、昨年12月に「胸のサイズから発想するアパレルブランド」のための別会社、122を設立した。テーストの幅やファッション性はさておき、OLの通勤服をつくることにした。
■気持ちに寄り添いパターンも見直し
もっとも、服作りは素人だったため、知人の紹介で国内の縫製工場に相談し、まずはサンプルを作ってもらった。胸の大きい女性15人以上を集め、実際にサンプルに触れてもらって意見を聞き、修正に生かした。シャツとジャケットから始めた。
例えば、シャツは前身頃に20センチほど余計に生地を取って立体的なつくりにし、生地が胸に引っ張られないようにした。シャツを出す場合もお腹が出ないように、前身頃も長めにしたほか、胸元には隠しボタンも潜ませ、生地が広がらないようにもした。
ジャケットは前身頃のダーツの位置そのものも大きくずらしたほか、襟もやや大きくし、第一ボタンもやや下げるなどバランスを整えた。
■市場、意外に大きい?
6月末にチケット購入型クラウドファンディング(CF)「エンジン」でプロジェクトを公開したところ、2時間で目標額に到達、現在は達成率996%以上となる298万円超となっている(8月9日まで)。シャツが1万1000円から、ジャケットが2万4000円から(ともにCFの購入価格)。
おっかなびっくりで始めた事業だが、想像以上の反応もあり、秋からは本腰を入れる。ECでの販売態勢の整備や期間限定でリアル店舗の運営をにらむ。働く女性に向け、「ワンピースなど基本となるアイテムを押さえていきたい」。
あるインナーメーカーの調査では、若い女性の多くは正確に自分のサイズを把握しておらず、4人に1人がEカップ以上あるという。「何で今までなかったのか」などの多くのツイートやCFの盛り上がりからも、胸の大きな女性のための洋服は、隙間のようでいて市場は意外に「大きい」のかもしれない。