林吾の修理、リフォーム、オーダー工房「アトリエ8845」 全国の富裕層を中心に顧客

2021/05/02 06:30 更新


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職人が作業する姿が見える

 レザーバッグ、革小物メーカー、林吾(大阪市、林靖範社長)の修理、リフォーム、オーダー工房「アトリエ8845」は、同社の本質的部分を担っている。修理、製造に関することで「できないことはない」とし、全国の富裕層を中心に顧客を持つようになった。近年は高い技術、人材を生かして自社ブランドの開発、販路開拓に力を入れている。目立ちはしないが、課題を一つずつクリアして、日本の製造業として生き残ろうとしている。

 今年、同社は創業80周年を迎えた。かつてはライセンスブランドのバッグ類を主に生産し、問屋に納入するビジネスを続けていた。ところが、00年ごろになるとコストの低い海外生産品との競合などで状況は厳しくなった。

修理事業で再建開始

 01年に林靖範氏が社長に就任(現任)し、大丸出身の相澤孝行理事とともに再建に当たることになった。職人が辞めていく状況もあったため、まず製造力を維持、発展させようと修理事業に目を付けた。04年にアトリエ事業部を発足、さまざまなバッグ、革小物の修理を引き受けた。この積み重ねで技術を磨き、あらゆる修理、リフォーム、オーダーに対応できる職人集団を作り上げていった。

 その集大成として18年8月、大阪市東成区の本社内に開いたのがアトリエ8845本店だ。技術力を買われて百貨店からの出店オファーも多くなり、19年2月には阪急うめだ本店、20年12月には大丸梅田店に自社ブランド「友禅文庫」を併設したアトリエ8845を開いている。期間限定店は月1回、全国の百貨店で開催する。

 アトリエ8845本店は、スタイリッシュで温かみのある空間に、さまざまな材料が整然と並ぶ。革だけでも数えきれないほど集積している。金具、ベルト、取っ手など付属品も多数ある。ガラス窓越しには、職人の働く姿が見える。

バッグ、革小物の材料が整然と並ぶ

 修理で最近多いのは染め直しという。サステイナブル(持続可能な)意識が広がる中、使い込んだバッグを染め直してほしいという要望が増えている。職人は顔料を微妙に調合しながら、元の色に合わせていく。黒に染め直すこともある。

 タブレットやスマートフォンのケースの修理、リメイクも最近多い。カメラやボタンの位置が変わることにも一つひとつ対応する。

 パターンオーダーだけでなく、フルオーダーも受けている。フルオーダーの場合はまずイメージに近い革でダミーを作り、ここからきめ細かに顧客の要望を取り入れる。刻印の型作りも対応する。

 アトリエ8845で扱うのは年間約数千個。本社には、顧客から預かったバッグや小物が数多く並んでいる。

いかに内製化するか

 近年は職人の技術を生かして自社ブランドを開発し、少しずつ販路を広げている。「修理やリフォームを数万個に伸ばすより、(自社ブランドの)プロダクトに力を入れたい」(林社長)とする。   

 友禅文庫は純白の革に、極めて細かい柄を手作業で彩色する。優美な花柄、幾何学柄、キュートなネコ柄などがあり、さまざまな小物を企画している。「古都印伝」は漆によって鹿革に柄を出す印伝の技法で、伝統的な和柄からコンテンポラリーな色柄まで揃える。

 課題は日本ならではの製造業の現状にある。バッグもアパレルや靴と同じように、国内では分業制が敷かれている。林吾も縫製など組み立て工程は内製化しているが、裁断、革漉(す)き、型押しといった部分は外注している。

 外注先は高齢化が著しく、サプライチェーンがこのままでは途切れることにもなる。裁断なども「いかに内製化していくか」(同社長)が焦眉の課題となっている。海外の工場は一貫生産が普通で、技術力も上がりやすい。そのためにも、同社としては付加価値の高いものづくり、ブランディングを進めていくしかないと考えている。

 同社の平均年齢は54歳。70歳以上の職人も多く、最高齢は82歳。若い人とベテランが共同でものづくりを支える。

 林吾の経営理念は「良心の経営」。一人ひとりが共感し合い、協働し、良心を積み上げて社会に貢献することを明らかにしている。今のスタッフとともにイノベーションを続け、日本の製造業を残すことが使命と考えている。

70歳を超えるベテラン職人も力を発揮している

《チェックポイント》ブランドビジネスへの展開がカギ

 サステイナブルな意識が市民レベルで広がりつつある今、物を大事に長く使おうとする人が増えている。壊れた物はすぐに捨てずに修理する、使えなくなった服をバッグにリフォームするといったニーズは高まっている。

 最近アパレル製品でもセレクトショップが消費者の使い古した服を黒に染め直すサービスを始めたり、アパレルメーカーが在庫になった製品を染め直して再販売するといったケースが目立つ。

 林吾は修理、リフォーム、オーダーといったあらゆるニーズに対応できる職人、技術を持っている。バッグ、革小物だけでなく、洋服も扱える。「よその修理屋と違って高いけど、こだわりを持ち、クオリティーが高い」(林社長)と自信を見せる。この技術をいかにブランドビジネスにつなげられるかが、成長のカギになりそうだ。年内にも本社隣に完成する自社ブランドの新ショップが楽しみだ。

繊細な彩色を特徴とする自社ブランド「友禅文庫」

《記者メモ》「目立ったらアカン」

 林社長へのインタビューで印象的だったのは、「目立ったらアカン」という言葉。急に売り上げを伸ばしたり、もうけを追求したら反動が出てしまう。それよりも10年、20年と残る企業になりたいという。経営とは「続けていくこと」とする。会社の「財産は人」とし、人を大切にしてきた歴史がある。70歳を過ぎても引退ではなく、可能であれば力を発揮してもらう。自社ブランドの発展、外注している工程の内製化によるサプライチェーンの確保など、これからの課題も少なくない。これらは一つずつ解決していき、息の長い企業を目指していくだろう。

(古川富雄)

(繊研新聞本紙21年3月17日付)

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