「こんなに円安にならへんかったらすごいもうかったはずなんですけど」。大手アパレルやセレクトショップを顧客に持つ、ニット・カットソーアイテムの中堅OEM・ODM(相手先ブランドによる生産・設計)、フェニックスインターナショナル(東京)の脇坂大樹社長は恨めしそうに言う。自社工場も含め国内外に生産基盤を有するが海外が圧倒的に多いからコスト増が利益を削る。為替予約をした途端に反対に振れるし、新しいやり方について来られない従業員は辞めるしと泣きっ面に蜂の状態だが、「もうちょっと苦労せえ、って試練を与えられてると思ってます。ここまで来たらウェルカムですよ」と笑う。
コロナ禍に入る前から、OEMならぬ、社名を取り入れたOFMを唱えている。同社でしか出来ない物作りとサービスの品質を指すが、要はがっちり組んで商い量を増やすことで双方にメリットのあるやり方を探る取り組みだ。取引先にとってはコストも下げられるし、追加も機敏に出来るため、賛同して〝握って〟くれた所はあったが、コロナ禍に突入して勢いがそがれた。その間、青森の協力工場などへ投資をして備えた。
21年は客先を絞った。「小さい商いでも手間は同じなんで、すいません、と」。120ブランドを70ブランドにまで減らした。細かい商いも足せば5億円、マイナスからのスタートだったが、締めてみると売り上げはほぼ前年と変わらなかった。自ら売り上げを減らすのは怖いが、「経営者の覚悟というか、もうエイヤです」。実は取引相手の絞り込みは現場に任せていた。2年ほど待ったが担当者は自ら切り出せなかったという。トップが動いたが、そのやり方に不満を持つ担当者の多くが会社を去った。「しゃあないですね」。
今取り組んでいるのが素材(糸)の絞り込みだ。これまで70素材を使って展示会を開いていたが、30にまで減らした。「一つの糸でニットはいろんな表情が出せる。編み組織や取り本数を変えたり、仕上げを工夫したり」。取引先に伝えた上でピックした中身をみると6割ほどは同じものを選んだという。プロでも糸そのものの違いが分からないなら、いわんや一般消費者においてをやだ。糸で70ぐらい用意するのは当たり前とされていたが、本当にそうなのか。常識を疑い、合理性のあるやり方を探る。はやりのデジタルうんぬんという前にやれることはまだまだある。
「従来のビジネスモデルは破綻しているし、コロナもあって今はみんながマイナスからの出発」。好きな野球に例えて、「それでも見逃し三振している」。円安に原料高、輸送コストの増加などなど〝くせ球〟ばかりの市場だが、せめてバットを振って欲しい、と新しい取り組みになかなか乗ってこない取引先にもどかしさを感じる。それでも、「15年も言い続けてますから」と諦める様子はない。為替リスクに悩まされたくない、と輸出業も始める。今度は試練を好機に変えるつもりだ。