「世にないものを作り出す」アツギの研究開発棟

2017/09/18 10:30 更新


【ものづくり最前線 国産ルネサンス】アツギの研究開発棟 「世にないものを作り出す」使命に 技術継承、人材育成の場としての役割も

 ストッキングのリーディング企業として、創業以来、日本の女性の脚を美しく装う商品を開発してきたアツギ。糸の加工から編み立て、染色、縫製などの一貫生産メーカーとしての機能をさらに強め、「まだ世の中に出ていない、新しいレッグウェアの開発」「スピード感ある物作り」を実現するため今年3月、神奈川県海老名市の本社内に、最新鋭の編み機などを導入した研究開発棟を新たに設けた。


最新鋭の編み機

 研究開発棟の構想は2~3年ほど前にスタート。伊ロナティの最新鋭のストッキング編み機や靴下編み機などを導入して今年3月に本格始動した。これらの編み機は、同社のむつ工場(青森県むつ市)や中国・煙台の工場にも未導入のもので、日本の他のレッグウェアメーカーにもほとんど導入されていない新型機という。10月にはカバリング糸を作る設備も設置する予定だ。

アツギの国内外の工場や日本の他メーカーにもまだ導入されていないという最新鋭の編み機を活用した新しい商品開発に取り組む

 研究開発棟の立ち上げの狙いは、「糸の加工から編み立て、縫製、染色、仕上げ、検査、物流までの一貫生産機能を強みとするメーカーとしての立ち位置を固めること」だと、研究開発を統括する鶴博次取締役執行役員は強調する。鶴統括は、3月21日付の組織改革で、技術開発部・マーケティング部・品質管理部を統括し、青森県むつ工場も管掌するようになった。1人の統括が見ることで、全体像を把握しながら、研究や商品開発のスピードアップを狙う。

 研究開発の対象は、既存商品のブラッシュアップと、世の中にないものを作り出すという2本柱で進められている。10月に開く18年春夏物の展示会では早くも、研究開発棟の成果として生み出された商品を一部、出展する予定だ。

現在のアツギのプレーンストッキング・タイツを代表するブランド「アスティーグ」


ベテランと若手と

 研究開発の核を担うのが、技術開発部技術開発グループのメンバーだ。国内外の工場で物作りの経験があるベテラン技術者の国井彰マネージャー、仮撚りやカバリングなどの糸の専門家の室井啓技術顧問、中堅技術者の加藤君敏グループリーダー、マーケティングで商品企画などを経験してきた鈴木弘之さん、営業や中国工場などの経験がある中村翔さん。20代からの若手から60代後半のベテランまで年代は幅広い。

ベテランから若手へ技術やノウハウを受け継いでいく

 一度定年を迎えながらも、差別化商品作りに欠かせない糸の専門家として呼び戻された最年長で68歳の室井顧問は、「技術者冥利(みょうり)につきる。仕事をする環境としても素晴らしく、使命感を持って企業や社会へ貢献したい」と意気込む。若手とベテランをつなぐ世代である40代の加藤グループリーダーは、「同じ志を持つ仲間と夢を語り合い、それを実現させていく楽しい職場。夢を形にする手応えも確実に感じている」と話す。


基本をしっかり

 最新鋭の編み機はコンピューター化が進んでいるが、「差別化のために必要なのは、最終的には技術者の手」(鶴統括)。どの国のどの工場でも同じ編み機を購入し、導入することはできる。ただ、昔から使われてきたアナログな編み機の構造を熟知していることが、差別化できる独自商品の開発に欠かせないという。

 国井マネージャーは、「99%出来たと思っても、残りの1%を超えるのがしんどい。それが開発」と話す。その1%を乗り越えるために特に大事にしているのは「基本」だ。「問題が起こったら、基本に立ち返る」と若手技術者に繰り返し伝えている。

 こうした技術継承も、研究開発棟の重要な役割のひとつだ。むつや中国からも若手の技術者や管理職を呼び、品質管理の基礎や編み立てなど、物作りに欠かせない知識と技術の研修の場としても活用している。ここで学んだ人材は、一人ひとりの知識や技術力向上はもちろん、得た知識をそれぞれの職場に持ち帰り、伝える役割も担う。

 「来る前は(本社に研修に行くのを)嫌がる人もいるが、1週間もいると目の色が変わるのが分かる。最後には『来て良かった』と言って帰っていく」と国井マネージャー。普段は、商品を作る作業と学びを並行してやるため、学ぶことに十分な時間が割けない。ここではすべての時間を、基本から応用までの学びの時間として使え、仕事のやりがいや、学ぶ喜びにつながるという。


《チェックポイント》強いアツギブランドを作るために

 今年が最終年度となる中期3カ年経営計画「アツギビジョン2017」で掲げる重要課題のひとつ「強いアツギブランドの構築」を実現させるのが、同施設の大きな役割として求められている。

 鶴統括のもと、研究開発、品質管理、マーケティングなどの組織が一つのチームとなり、新製品の研究開発や、技術者のレベル向上に挑んでいる。核となるのは20代の若手から60代のベテランまで各年代が揃う研究開発のメンバー。物作り一筋のベテラン技術者から、営業やマーケティングを経験した若手までが集った。年代や、キャリアのバックグラウンドはそれぞれだが、同じ目的に向かう結束力は強く、家族のよう。海老名の本社内に施設を設けたことで、チームを組む他の部署のメンバーとも連携がスムーズになり、開発へのスピードが加速している。

鶴統括(中央)と研究開発棟に関わる、技術開発部、マーケティング部、品質管理部の皆さん


《記者メモ》開発の歴史に新たな1ページ

今では当たり前のように様々なタイプが店頭に並ぶストッキングの中には、アツギが初めて世に送り出した商品も多い。後ろに縫い目のないシームレスストッキングを日本で初めて開発し、発売したのが1955年。68年には日本初のパンティーストッキングを発売した。さらに79年、ポリウレタンにナイロンを巻きつけたカバリング糸を使ったストッキング「フルサポーティ」を世界で初めて世に送り出した。

 ただ残念ながらこの間、物作り起点の大型開発品は出てきていない。今年12月には創業70周年という節目を迎える同社。研究開発棟が新しいレッグウェア開発や、次世代を担う技術者育成につながることを期待したい。

(壁田知佳子)


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