22年春夏ミラノ・コレクション ブランドの原点を背景にフィジカルショー

2021/09/29 06:28 更新


 22年春夏ミラノ・コレクションは、素肌を見せる官能的なスタイルが広がった。ニューヨークから始まったブラトップをアクセントにしたコーディネートはミラノでも目立つ。背中を大胆に開けたベアバックドレスやボーンやレースアップのディテールでフェミニンな雰囲気を強調する。

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〈フィジカル〉

 今年40周年を迎えたエンポリオ・アルマーニは、メンズとレディスの合同ショーを開いた。冒頭、モニターには40年の歩みを振り返るイメージ映像が流れ、「40イヤーズ」の文字が大きく映し出されると同時に会場は喝采の拍手に満ちた。コレクションは空想上の砂漠から始まる。オアシスを超えた後に現れる活気に満ちた場所への旅。砂漠の色であるベージュ、グレージュ、オアシスの清涼な水のようなアクアグリーン、夕焼けの壮大な空を思わせるオレンジ、赤紫と、色も物語を奏でる。レディスは、透ける軽い素材のレイヤードスタイル。流れるようなシルエットを作るパンツとブルゾンのスーツ、エアリーなダスターコートやジップパーカーは静かに揺れる水面のようだ。イブニングウェアは、鮮やかな色の総スパンコールのトップやミニスカートが若々しい。

エンポリオ・アルマーニ

 メンズは、ブランドの王道スタイルである「脱構築」を探求し、ソフトなテーラードジャケットや透け感のあるエアリーなシャツジャケット、パジャマパンツ、バミューダパンツなどリラックスムードにあふれる。メンズとレディスに共通するのは、軽やかさ。ともにしなやかに生きていこうというメッセージが伝わった。

エンポリオ・アルマーニ

 サルヴァトーレフェラガモも、レディスとメンズの合同ショーを開いた。「イタリアの夏」をイメージした軽やかでエアリーなコレクション。夏の空の色、森の緑、大地のブラウンなど、自然界の色を取り入れた。ラフィアのフリンジが躍動するスカートやリラックスムードあふれるヌーディーなドレス。ナッパレザーのコートやシャツは極薄のナッパを用い、レザーとは思えない軽さだ。ビッグなバルーンシルエットのカフタン、リラックスムードあふれるニットのトップとパンツのセットアップなどジェンダーレスなアイテムも多い。レディスのパンツは、裾をストリングスで絞るなど、ワークウェアから着想し、メンズライクだ。

 アーカイブ柄のタイガーストライプのジャカードに70年代のスカーフのプリントを刺繍したチュニックは、フランスのアーティスト、ジュリアン・コロンビエとのコラボレーション。小物も、70年代当時の細長いフォルムの「ヴァラ」やバッグなど、過去のアイテムを現代風にアップデートして提案している。美を追求したブランドの創業者サルヴァトーレ・フェラガモの魂に立ち返り、新たな時へと出発しようとする意志がみえる。

サルヴァトーレフェラガモ
サルヴァトーレフェラガモ
サルヴァトーレフェラガモ

 ミッソーニは、新クリエイティブディレクター、アルベルト・カリーリのデビューコレクション。会場となった工業地区の旧鋳造場のアプローチには、編機の映像とその機械音がリズミカルに流れるトンネル。物作りの勢いと重要性をインプットされる。カリーリが見せたのは、気負わずにありのままの女性らしさを謳歌(おうか)する独立した女性像。有機的なカーブを描くジグザグのロングドレスからマスキュリンなパンツ、ドレスと合わせたマイクロサイズのトライアングルブラにまで、濡れたようなシルバーのベールが掛けられ輝く。極細ショルダーストラップのワンショルダードレスや、上半身の脇に大胆にくりを入れたドレス、クロップトトップなど、女性の肌が服の一部となるようなアイテムがほとんどだ。男性にセクシーさを強調するためではなく、自分のための静かなセンシュアリティー。ロングドレスやトップとして登場したパッチワークは、芸術家としての素養にもあふれたブランド創業者、オッタヴィオ・ミッソーニが制作した数々のタペストリーから着想し、ヘリテージも尊重している。

ミッソーニ
ミッソーニ

 エルマンノ・シェルヴィーノは、エメラルドグリーン、イエロー、ピンク、パープルなど、鮮やかな色のスポーツ・クチュールを発表した。レースとスパンコールのクチュールライクなミニドレスの上に立体的なフォルムのパーカやアノラックを羽織り、チャンキーヒールのサンダルを合わせた。レザーやレースのミニショーツやミニスカート、カーゴパンツ、一面にフェザーが刺繍されて風にそよぐ。スクエアシルエットのオーバーサイズニットなどストリートウェア的なアイテムも加わり、ミレニアル世代、Z世代にもアピールした。サステイナビリティー(持続可能性)やエシカルに関心の高い世代にむけて、動物を傷つけないクルエルティフリーのレザーを使用したスーツなども取り入れている。ブランドが当初から発表を続けているレースと刺繍のイブニングドレスやワンピースも健在。今季は、深いスリットのパネルスカートや、ヌーディーなクロップトトップでよりセンシュアルになった。

エルマンノ・シェルヴィーノ
エルマンノ・シェルヴィーノ

 エトロは、クリエイティブディレクターのヴェロニカ・エトロが度々提唱してきた70年代の喜びにあふれる神秘主義や精神的覚醒を、90年代の端正な縦長シルエットに載せた。力強く咲き誇る花柄や、生い茂る〝生命の樹〟は生命力にあふれ、サイケデリックなオプティカルパターンや流れるようなペーズリー柄は、躍動感をはらむ。マルチカラーのクロシェ編みのタンクトップとウォッシュドデニムのイージーパンツ、ジャカードニットのブラトップとミニショーツなど、トレンドのクロップトトップはスポーティーに表現。ウエスト部分の肌を見せるドレスも多いが、セクシーというよりも軽やか。エンディングは、フランスのインダストリアル・パーカッショングループ「レ・ターンブル・デュ・ブロン」のライブ演奏。プリミティブな力強さがコレクションとシンクロした。

エトロ

(ミラノ=高橋恵通信員)

〈デジタル〉 

 プラダは、ミラノと上海で同時にフィジカルのショーを開催し、その模様をデジタル配信した。それは二つの会場で同時進行するフィジカルと、そのデジタル映像がシンクロする発表方法。そこで見せた春夏は、ぐっとミニマルな方向へとシフトした。ミニスカートからスクエアな布が後ろへ流れ、ゆらゆらと揺れる。そこにレザーのテーラードジャケットを合わせ、強さをプラスする。サテンドレスは背中をばっさりと開けて、シンプルな中に官能的なムードを添える。ドレスのウエストにはボーンのような立体感が取り入れられ、トップにはレースアップのディテールが加えられる。ブラパーツをかたどったセーターも含めて、フェティッシュな空気を放つ。

 ベアバックのサテンドレスやレースアップのひものほどけ具合から、脱げかけの美のようなものが感じ取られる。脱げかけの美という表現は、かつて日本のブランドの「トーガ」も見せたことがある。しかし、脱げかけの美といえども、ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズの手にかかると随分と強さが増す。ミニマルとフルイドの強弱が、クラシックなトレーンを引くドレスでもなく、かつてのミニマリズムとも異なる今の時代性をはらんでいる。そしてフェティッシュな女性らしさもありながら、プラダらしい凛(りん)とした空気も共存している。テーマは「SEDUCTION,STRIPPED DOWN」。

プラダ
プラダ
プラダ

 フェンディは、アーティスティックディレクターのキム・ジョーンズとシルヴィア・フェンディ、デルフィナ・デレトレズ・フェンディによるコレクションを見せた。構築的なテーラードスタイルとブラトップ、ファーコートとブラトップ、メゾンの特徴ともいえるファーや構築的なラインと軽やかなブラトップのコントラストが強調される。曲線の刺繍やモザイク状のジグザグ柄、ランドスケープのような抽象柄がドレスに描かれる。

 空想的なファッションイラストレーター、アントニオ・ロペスの作品を出発点にしながら、かつてのニューヨークのディスコ「スタジオ54」のムードを取り入れた。フェンディらしい象眼細工の手仕事とともに、70年代の気分を感じさせるコレクション。

フェンディ

(小笠原拓郎、写真=フェンディは大原広和)

 アルベルタ・フェレッティは、ミラノ市内の回廊で行ったショーをデジタル配信した。登場したのは、軽やかでドライなタッチのマスキュリン&フェミニンスタイル。空気をはらむ柔らかなフォルムと、構築的なフォルムのコントラストがポイントだ。シフォンのパフスリーブトップやキャミソールドレスに、テーラードジャケットやハイウエストパンツ。マクラメのトップやグラディエーターサンダルがクラフト感をプラスする。モノトーンやサンドベージュに始まり、ルビーやターコイズといった石の色が次第に加わる。土や鉱物といった自然を感じさせるエレガンス。

アルベルタ・フェレッティ

 ロベルト・カヴァリの新作は、アニマル柄を多用したボディコンスタイル。クリエイティブディレクションを担当するファウスト・プリージは、どこかパンキッシュな強さをはらむセンシュアルな女性像を表現した。身頃に描かれるのは、レパード、ゼブラ、タイガーといったあらゆる動物の斑点模様と顔。タイトなミニドレスやボディースーツで体の線を強調し、肩パットをきっちり入れたジャケットでシャープなラインを描いていく。深いスリットや大きいカットアウトは、艶やかさとともに野性的なムードも感じさせる。

ロベルト・カヴァリ

 モンクレール・ジーニアスは、久々にミラノ・コレクションで発表した。様々なデザイナーとともに手掛けるジーニアスのシリーズは、コロナ前まではミラノを盛り上げる存在の一つだったが、満を持しての印象だ。今回のタイトルは「モンド・ジーニアス」。国境を越えて世界中の人々を結びつけることをコンセプトに、ミラノ、ニューヨーク、東京、ソウル、上海の5都市で撮影した映像を一つのストーリーにまとめた。近未来を思わせるデジタル映像を通じて、11人のデザイナーのクリエイティブビジョンを共有した。

 今回の目玉は初参加の「ハイク」による「4モンクレール・ハイク」。東京の夜景から始まる映像は、東京テレコムセンターの丸いアトリウムを俯瞰(ふかん)しながら中へ入っていく。丸い空間にずらりと整列したのは、グレーがかったカーキやネイビーのワンカラーのルック。無機質な空間に雪が舞う不思議な状況のなか、ハイクを象徴するシンプルなユーティリティーデザインと、モンクレールの物作りが融合した。目を引くのは、上から下までダウンで体をすっぽりと包み込むアウター。裾からプリーツスカートがちらりとのぞくモードな防寒スタイルだ。足元もダウンのレッグウォーマーでもこもこ。重心の低いシルエットで新しいモンクレールのスタイルを提案する。映像では、俳優の杏と福士蒼汰が案内役を務めた。9月28日からECで販売している。

4モンクレール・ハイク

 そのほか、「JWアンダーソン」「クレイグ・グリーン」、藤原ヒロシの「フラグメント」、「パーム・エンジェルス」などが引き続き新作を披露した。

(青木規子)



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