22年春夏ミラノ・コレクション 多様性感じさせる軽やかな抜け感

2021/09/28 06:27 更新


 22年春夏ミラノ・ファッションウィークの公式スケジュールの総数は173、うち125がリアル開催となり、コロナ禍以前の活気を取り戻そうとする意気込みが見える。「グリーンパス」とマスクは必須。展示会場で簡易PCRを提供するブランドもあった。ショーは、招待客数を絞りながらソーシャルディスタンスを保って席を配置。ほとんどのブランドが、密になりがちなスタンディングは設けていない。欧州、米国など、海外からの来場も目立った。ショー会場前にパパラッチたちが群がる光景も久しぶりに戻ってきた。

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〈フィジカル〉

 ジル・サンダーの会場は、壁、天井から座席まで、デリケートな藤色一色。そんな柔らかな空間に現れたのは、極端に広いショルダーのボックスシルエットのジャケットやコート。その力強いマスキュリンなアイテムは、流れるような質感のパンツやボウタイと合わせることで、程良く抜け感がある、軽やかなイメージへと変化する。布を重ねたカラーブロックのシャツドレスや、ドレープを寄せてウエストからヒップをフィットさせたトップは、凝った仕立てなのに自然体に見せる。

 スパンコールが総刺繍されたロマンティックなパフスリーブのワンピースは、裾が切りっぱなしのカジュアルなパンツとコーディネート。カラーパレットは、白、黒、茶に加え、ペールピーチ、シャーベットイエロー、ライトグリーンなどの柔らかい色。ルーシー&ルーク・メイヤーが得意とする「折衷主義」。自身の多様性、多面性をありのままに受け入れ前を向く、軽やかな生き様を表したような服は、今こそ必要とされているのかもしれない。

ジル・サンダー
ジル・サンダー

 マックスマーラのコレクションは、ビートジェネレーションの作家がタイプライターで物語を打ち込むような、ノスタルジックなイメージが出発点だ。エレガントでアンニュイな、ブルジョアジーの長い夏の物語が、海沿いのバカンス地で織りなされる。コレクションは、フランソワーズ・サガンの小説「悲しみよ こんにちは」の主人公セシルの現代版をイメージし、サガン自身のスタイルともいえる、ボヘミアンな快楽主義的ビートニク・シックを表現した。

 フィッシャーマンの上着や機械工のオーバーオール、カーペンターパンツなどのワークウェアをプレタポルテの技巧で再解釈し、軽快でアクティブなエレガンスを表現。ビッグシルエットで張りのある工員風シャツや、ビーチチェアのような幅広ストライプの半袖コートは、同素材のミニスカートとセットアップ。時には、シフォンにフェザーを立体的に刺繍したクロップトパンツなど、フェミニンで楽しいアイテムとの組み合わせも。カラーパレットは、砂色、キャメル、ネイビーやブラック、オレンジ、イエロー。

マックスマーラ

 ブルマリンは、3シーズン目を迎えるクリエイティブディレクター、ニコラ・ブロニャーノによる、アクティブでセンシュアルな女性像が定着した。床にラメがまかれたピンク一色の会場に、スウェイ・ザックのエレクトロニック音楽に乗って登場したモデルの髪もきらきらと輝く。アイコンアイテムのファーの襟付きカーディガンは、ビビッドなイエローやピンクのスパンコールが総刺繍されたマイクロミニのスカートやパンツとコーディネート。フリルたっぷりな透けるカシュクールドレスは、ゼブラや花、デニムのパッチワーク柄のカジュアルなパンツと合わせた。シフォンの透けるカーゴパンツ、デニム柄のシフォンのミニドレスなど、カジュアルとフェミニンを程良く配合し、はつらつとしたセンシュアリティーを醸し出した。

ブルマリン

 レディスとメンズを発表したMM6メゾン・マルジェラの招待状は赤いギンガムチェックのテーブルナプキン。地元の人の待ち合わせのランドマーク的なカフェでショーを開催した。招待客がマルジェラ特製のコンセプチュアルな軽食をつまみ、乾杯する中をモデルが歩く。厳しいロックダウンを経験した身としては、そんな普通のことが、まるで夢のようにも感じられる。

 チェス盤の柄をメタリックな赤や緑で大胆に表現したデニムやテーラードジャケット。生地の端を残したままの裏地で作られたサテンのイブニングドレス。後ろ身頃から袖や手袋がにょきっと生えたレザージャケットやロングドレスは、遊び心を感じさせると同時に、シュール。フェリーニの映画のような、一筋縄ではいかない祝祭的ムードを内包している。「クロード・カウンら、シュールレアリズムを代表する女性芸術家たちの反骨精神に呼応した」というコレクションだが、風になびいたまま動きを止めた重力に反したスカーフなど、反骨さえもウィット。「普通の生活」が戻ってきたことへの喜びと祝福を表す、遊び心があふれるコレクション。

MM6メゾン・マルジェラ

(ミラノ=高橋恵通信員、写真=ジル・サンダーは大原広和)

 彼の時代が再びやって来たのかもしれない。アレッサンドロ・デラクアによるヌメロ・ヴェントゥーノは90年代後半のミニマムかつセクシーな要素を持つ。まさに今のトレンドを地で行くブランドだ。ブラトップにはオーバーサイズのテーラードジャケット、レディスのミニスカートやメンズのパンツのウエストはサイドで開閉でき、ウエストバンドと肌をちら見せできる。バリエーションでヌードカラーの透け感のあるスーツも。スリップドレスを覆うスパンコールとオストリッチフェザーが華やかに動きを演出する。その一方で、ニットのパンツやブラがクラフト感を与えた。長いフェザーのストールが繰り返し登場したが、床を引きずって歩く演出というものを久しぶりに見た気がした。

ヌメロ・ヴェントゥーノ

(ライター・益井祐)



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