ロンドン・ファッションウィーク・セプテンバー2021 パーソナルな思いを投影したドラマチックな服

2021/09/27 06:29 更新


 22年春夏ロンドン・コレクションは待ちに待ったフィジカルショーの再開にふさわしい、誕生や再出発をテーマにしたコレクションがリードした。自らのシグネチャーに向き合い、下着アイテムなど今の気分を盛り込んでパワフルに昇華させる。性差や体形、年齢などの縛りもその存在を忘れるほどに解き放たれている。

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〈フィジカル〉

 シモーン・ロシャのショー会場である重厚な教会に早めに着くと、バックステージから赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。座席に置かれたショーノートの1行目には「娘たち」、続いて「育児」「コミュニオン(初聖体)ドレス」などのキーワードが並ぶ。デビュー10周年の記念すべき今シーズンは2人目の娘の誕生とも重なり、パーソナルで神聖な美しさあふれるコレクションとなった。

 ショーはコミュニオンの儀式の時に少女たちが着るドレスを思わせる、レースやチュール、サテンのリボンテープで飾られた白いドレスのシリーズで始まる。少し肩が落ちたパフスリーブ、肩まですっぽり包む大きな襟。胸に目を向けると、マタニティーブラのようにブラカップが半分開き、中からジュエリー飾りがのぞく。その後もこのディテールは、黒いランジェリードレスの胸元やパフスリーブのテーラードジャケットの上に着たブラトップなど、幾度となく登場する。セーターの片方の裾を肩まで持ち上げたり、カーディガンやオーバードレスの片方の肩を落としたスタイリングも授乳を思わせる。ロマンティックなボリュームドレス、花刺繍をのせた透けるロングドレスなど、これまでにも幾度となくデザインしてきたシグネチャーは、様々なテクスチャーが盛り込まれ、細かいディテールが飾られている。一方、前シーズンに続くガーリーなバイカージャケットは黒に加えてギラッと輝く赤で作られ、新作に少しの毒を差す。ビバ・シモーン。そんな祝福ムードに包まれたリアルショーの復活となった。

シモーン・ロシャ

 チャールズ・ジェフリー・ラバーボーイのショー会場に入った途端、90年代グランジ時代のマルタン・マルジェラのショーを思い出した。夜8時、荒れた黒塗りの壁や床。床に貼られたテープで仕切られたランウェーの両脇にぎっしりと観客が立ち、これから何が登場するのか期待を募らせる。ところがそこに現れたのは、装飾主義のこのデザイナーの作品とは思えない白、黒、赤の無地のドレス。クリノリンのようなボーンを付けたり、トレーンを引きずるシンプルな服だ。これをどう解釈すればいいのか。もやもやとした気持ちで出口に向かうと、そこには同じようなもう一つのショー会場が用意されていた。

 原始宗教の守り人のような男が観客を威嚇(いかく)する。ラバーボーイのロゴ入りスポーツブラやショーツを着て儀式のような踊りを繰り返すダンサーたち。その間をぬって登場したモデルは、白いピューリタンカラーやラフといったヒストリカルなディテールを差し込んだセットアップ、ポップなジャカードセーターという華やかなラバーボーイスタイルで闊歩(かっぽ)する。シグネチャーのタータンはラメで織られ、ロゴ入りブラは男性モデルの胸にも付く。実は、最初のショーは歴史的なフィルターを通してファッションを描く新人、ブラッドリー・シャープの新作だった。次の部屋でのラバーボーイのショーを経て、パーティー会場へ。「ポータル」(入り口、出発)と題したラバーボーイのポストパンデミックへの旅はそこで完結する。

チャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ

 レジーナ・ピョウは、ロンドン五輪のためにザハ・ハディドが設計したアクアティクスセンターでのショー。オレンジとピンクの水着を着た選手が高い飛び込み台から美しく舞い落ちるシーンからスタートし、同じ色のビキニやビキニショーツをレーストップや透ける玉虫のシャツに合わせたモデルがプールサイドを歩く。ニットのブラトップには裾を引きずるほっそりパンツを、タオル地のビキニトップにはパジャマ風のセットアップを合わせる。鮮やかな色を多用したリゾート気分のコレクションは、ピョウ自身が旅行先のニューヨークとソウルで撮影した風景写真のプリントドレスもある。胸や腰の布地をアシンメトリーにつまんだマトンスリープのトップやドレス、肩までかかる大きな襟のワンピースも加わり、ハッピーなムードを放つ。

レジーナ・ピョウ

 ポール&ジョーは、ロンドンで初めてのショーを披露した。デビュー当時ポートベローロードの店で成功を遂げた同ブランドは、1年前に25周年を機にロンドンでショーを行うはずだったが、ロックダウンで延期していた。「スノッブでちょっぴり窮屈なパリのファッションウィークではなく、開放的なロンドンで見せたかった」と創業デザイナーのソフィー・メシャリー。明るくしゃれたジョージア朝の屋敷でのショーには、四角いヨーク切り替えやカチッとした肩からふんわり広がるパフスリーブが印象的な、かれんな花柄ドレスが並ぶ。クラシックな壁紙プリントのような花と並んで桜の花も随所に見られ、クロシェのトップやベストにも桜モチーフが散る。英国と並ぶこのブランドが特別な思いを寄せるもう一つの国、日本を意識したもので、モデルの目にも桜の花のメーキャップが施されている。(ロンドン=若月美奈通信員)

ポール&ジョー

 古代ローマの神殿に迷い込んだのではないかと錯覚させる巨大な柱。アーデムの会場となったのはあの大英博物館だった。床にまで届きそうなマキシレングスのスカート、ウエストを強調した細身のシルエットが印象的。ストリングでギャザーを寄せて作るビュスティエを配したロココ調のドレス、ラッフルを配したエンパイアスタイルのトレーンが流れる。アーデムお得意の歴史ロマンスは健在だ。もちろんシグネチャーであるフローラルも。大ぶりの花がプリントとして咲き誇り、繊細な絵柄がスパンコールで麻の上に描かれた。「H&M」との協業でローンチされたメンズウェアが本格的にショーに登場した。二重の虹に見送られゲストは幸せそうに会場を去った。(ライター・益井祐)

アーデム

〈デジタル〉

 マティ・ボヴァンは今回も、ちかちかっとしたコラージュ映像での新作発表となった。ケイティ・グランドがクリエイティブコンサルタントを務めることもあってか、エリン・オコーナーやローズマリー・ファーガソンら90年代のトップモデルがポーズを取る。「ハイパークラフト」と題した新作は、70年代の日常を、鮮やかな色や意表を突いた異素材のぶつかり合い、大胆なボリュームで変貌(へんぼう)させた。70年代のインテリアファブリックや祖母から教わったというクロシェも取り入れ、クロシェのモチーフ編みはチュールと組み合わせてワイヤ入りのドレスを飾る。母の若い頃など家族の写真をプリントにも採用したパーソナルなコレクションは、手仕事をふんだんに使ってその技術を次世代に継承したいという思いも込められている。(若月美奈通信員)

マティ・ボヴァン

 シルクドレスの長いトレーンが宙を舞う。デジタルで新作を発表したハルパーンは、英ロイヤルオペラ団と協業。バレリーナのムーブメントにのせて、レースアップディテールのタイトドレスのスパンコールはきらめき、床にまで届く長いフリンジが荒々しく動き回った。オストリッチフェザーが散りばめられた球体は、骨組みに生地を貼り形成。その製作過程の難しさをホテルの一室で行われたアポイントメントで話してくれた。映像に参加したバレリーナのうち、3人が日本人だったことを誇りに思う。(益井祐)

ハルパーン

 トーガが動画撮影の場所に選んだのは、東京都内のオフィス街をつなぐ広い空間。新作を身にまとった男女のモデルが行き交う様子は、通勤ラッシュを思わせる。都会の雑踏とテーラーリングを軸にした新作は、日常にシンクロしているようであってどことなく違和感があり、その新しいムードが目を引き付ける。最初に出てきたのはオーバーサイズのテーラードジャケットとスラッシュを入れたパネルスカートを着た男性モデル。ウィメンズを男性が着るスタイルだが、奇をてらったジェンダーレスではなく、きりりとスマートに身にまとう。男性も女性も分け隔てなく着ることで、マスキュリンやフェミニンといった既成のイメージとは違う新しいスタイルを作っていく。テーラードジャケットにコットンレースが見え隠れする透けるスカート、肩からフリルがあふれ出すノースリーブジャケットなど、デザインの中にもマスキュリンとフェミニン、テーラードとドレスの要素が交錯する。そのスタイルはさらに進化する。シャツドレスは肩にすぱっとスラッシュが入り、グラフィティーや住居の写真がプリントされる。現代アーティストのゴードン・マッタ=クラークが都市に着目した作品から引用した。背中の布がたっぷりと空気をはらむシャツドレスも軽やかで新しい。(青木規子)

トーガ

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