ザラはなぜ強いのか インディテックスの現場に迫る

2017/08/04 18:00 更新


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 「ザラ」をはじめとして、世界93カ国・地域に7292の店舗を持つインディテックス。2兆8000億円を超える売上高はH&Mとしばしば比較され、ファーストリテイリングが売り上げで並ぶことを目指すと公言する。まさに、グローバル大手小売りのトップ企業だ。天候不順などでライバルが苦戦を強いられた昨年も、既存店ベースで増収を維持するなど好業績が続く。「世界中の店のお客様の声が商売の方向を決める」という同社が、物流、生産、企画、店頭、それぞれの現場で何をしているのか。強さの理由を探る。

(柏木均之)

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 マドリード郊外のメコにあるインディテックスの物流センターは、延べ床面積13万6000平方メートル。およそサッカー場19面分の広さを誇る施設は、ザラ向けでは最大規模の物流拠点の一つだ。1日に多い時で100万点の商品がセンターに届き、100万点が各市場に向けて出荷されるという。

スペイン国内の物流拠点に集まった商品は全世界の各店舗の発注を個別に仕分け、配送の準備を整える(メコの物流センター)


◆商品は店が発注

 ザラで09年にICタグ導入を開始、16年にほぼ完了した。物流センターでは入荷した時点で1品ごとのデータが入力され、各店配送までの流れの大部分が自動化された。商品情報の確認は入荷後と出荷前の2回だけ。メコの責任者は「デリバリーまでの速度はあまり変わらない。むしろ店頭に送る商品を仕分けし、送るまでの作業の精度が上がったことが大きい」と話す。

 同社の物流機能は全てスペイン国内にある10の物流拠点に集中している。メコを含め、このうち四つが主力業態であるザラの商品の物流をつかさどる。インディテックスの年間販売商品量は11億点を優に超えるが、世界中で生産された商品は、産地を問わず、ほぼ全量、まずこれら物流拠点に集められる。

 生産国から直接各市場に商品を届けるのではなく、いったんスペインの物流拠点に商品を集めるのは、店頭に商品を供給するまでのインディテックス独自の仕組みに理由がある。店でどんな商品が必要か判断するのは、世界中に点在する店舗であり、店頭に供給する商品の企画が本社主導で決まることはない。店は本社に対して日々の商売に必要な商品とその量もそれぞれに決め、発注する。

 世界中の店舗にはそれぞれデータ端末があり、そこから日々の売り上げを本社に送り、同時に翌日以降、必要な商品を必要な量、発注する仕組みになっている。発注を受けた本社は、最短1時間で適正な発注量であるか判断すると、各物流センターへ商品供給を指示する。

 各物流拠点は、週6日24時間3シフトで稼働し、各店からの発注に応じた商品配送の手配は8時間で終える。個別の店舗の発注に応じてアソートし、梱包(こんぽう)された商品は、欧州域内ならトラックを使い、36時間以内で届き、航空便を使う欧州域外でも48時間以内には店頭に到着する。

成田空港に向かう商品。梱包は日本各地の個別の店ごとに分かれている



◆適時供給の精度

 グローバル大手のファッション小売りが他社に抜きん出て成長するのに必要な条件の一つに、商品を適時供給する仕組みの精度がある。店頭で欠品を防ぎ、品揃えの鮮度を常時演出するため、インディテックスの場合、世界中の店舗に週2回、必ず新商品が届くようにしている。

 この頻度と速度を実現するには企画、生産、物流の仕組みが円滑に機能することが前提となる。本社が売れ筋や見込み販売量を判断して個別の店舗に押し付けることなく、全世界で7000を超える店が自店の売れ行きと利用客の好みに応じて、商品の種類や仕入れ量を個店で判断させるようにもしている。

 言い換えれば、客との接点である店の要望を元に、企画も生産も物流も機能する仕組みがインディテックスの強みの一つと言える。実はこの強みは、1963年に縫製工場として創業した同社が、半世紀以上をかけて、作る側と売る側の求めるもののギャップを埋めようと試行錯誤し続けた結果、形成されてきたものだ。 



 インディテックスの原点は縫製工場だ。その工場が1975年、現在も本社のあるスペイン北西部の街、ア・コルーニャに「ザラ」の1号店を出した。取引先の小売店の受注に頼るのではなく、店頭で必要な量の商品をそのつど作り、自前の店で売る、という今日も続くビジネスモデルはここから始まった。

 工場が作る商品を自店で売り切るためには店数を広げる必要があった。1号店から10年で、スペインで店舗数を50まで拡大した。自前で作り、自前で売る商売の仕組みが国内市場で消費者に受け入れられたと見るや、海外でも店舗を増やし、ザラ以外の業態の開発にも着手した。


◆距離の近さ重視

 一貫して重視しているのが「プロキシミティー」。ビジネスを行う際の距離の近さだ。プロキシミティーをファッションの商売に当てはめると、市場に近い国で作るか、本社に近い場所で作るか、2通りの考え方ができる。インディテックスの場合は後者だ。生産の6割は現在もスペインやポルトガル、トルコ、モロッコなど欧州とその周辺国が占める。作った商品はいったんスペインの物流拠点に集め、店に届ける。本社に近い距離で行うことで、売上高が2兆8000億円を超えてなお、市場変化への対応速度を維持している。

 昨年度、インディテックスが販売した商品点数は11億7700万点。これを世界93市場の7292店へ、個別の店舗の発注に応じて週2回ペースで届けた。膨大な量だが、実は1品番当たりの店頭に投入される商品点数はそれほど多くならない。

 1年に5万品番、ザラだけで2万品番を商品化する。生産量は商品の種類で違い、複数色作ることもあるが、1デザイン1色1万5000~2万点作るのが平均的な量だ。ザラの店舗は世界で2000を超えるので、全店が発注すると、計算上、1店当たりの入荷数が各色十数点程度の品番もある。

期中対応の速度と精度を両立するために本社の近くで生産する


◆期中も新商品

 1品番当たりの生産量を増やさない代わりに、シーズン中も、新商品を企画、生産し、店頭に投入し続ける。繁忙期、閑散期で届ける商品量にはばらつきがあるとしても、単純計算で週2回、商品をデリバリーすると、世界のザラの店頭に、毎週400品番近い新商品が届いていることになる。

 立ち上がりに投入する商品の販売実績や、店頭で来店客からくみ取った潜在ニーズは、店からの商品発注と同様、逐次本社に報告され、分析する。そこで得たデータを元に企画した商品は2~3週間で生産され、物流センターに届き、個別の店舗からの発注に応じて週2回のペースで送る商品のどこかに組み込まれる。

 高頻度、短サイクルで商品を供給するために、今も欧州とその近隣で6割を生産するわけだ。残り4割のアジアなど物流拠点から遠い地域にはトレンド変化が少ない、ベーシック商品の生産を割り当てている。集荷、配送までの時間はかかるが、ある程度シーズンごとの販売量が予測できるため、遠隔地の生産では調達コストと品質のバランスを優先していると言える。

 「ザラ」をはじめとする全てのストア業態でグローバルに高頻度、短サイクルの商品供給を実現するのに、インディテックスは、本社にできるだけ近い場所に生産、物流の機能を集約している。企画、デザイン業務も同様だ。その機能は創業の地・スペインに集中している。


◆市場担当と一体

 年間5万の商品をデザインするのは600人の社内デザイナーだ。うち、半数強がザラの担当。本社のデザイナーが働くセクションにはパターンを作成する担当がおり、同じフロアにミシンやトルソーもある。デザイン画からサンプル作成まで、一つの場所でできる仕組みだ。

 ザラの場合、本社内の商品企画部門は商品ごとにフロアが分かれている。主力のウィメンズのセクションは2万4000平方メートル。テニスコート90面分以上の1フロアの片側にデザイン部門、もう一方に生産、調達担当が働き、中央に各市場の店舗とのやり取りを担当するカントリーマネジャーの席がある。

 商品の売れ行きを左右するデザイン部門には一定の権限があるが、企画の起点はあくまで店頭から寄せられる客のニーズだ。

 サンプルが商品化されるか否かの判断は、デザインチームの一存ではなく、同じフロアで働く生産担当とカントリーマネジャーとの議論の末に決まる。

 とりわけ重視するのが、ウィメンズ、メンズ、キッズと商品ごとに数十人いるカントリーマネジャーの意見だ。彼らは日々、どんな商品が求められているか、トレンドのどの部分が各市場の店の顧客に響いていて、次に何を作るべきなのか、客との唯一の接点である店舗の責任者から情報を得ており、それをデザイン部門に伝えている。

 実際に商品化される倍以上のデザインから仕上げた製品サンプルを見て、カントリーマネジャーは店頭で拾い上げた声が十分に反映されたか判断する。その上で生産・調達担当がどの素材を使い、どこで作れば、期中の適切な時期に店頭へ供給できるか見極め、商品化する。

広大な1フロアにデザイン、生産担当、カントリーマネジャーが集まり、働く。客の声を商品の形に変えていくという


◆素材傾向先取り

 春夏、秋冬いずれも立ち上がりの段階では、そのシーズンに売る商品の3割程度しか企画は決定していない。デザインチームは、「シーズン初め」「期中対応」「次シーズンの立ち上がり」と担当を分け、店頭の販売実績と客のニーズ変化をベースに、常に同時進行でそれぞれのタイミングの企画を考えている。

 「我々はファストファッションではない」。客の求める商品を正確に作るために、店から寄せられるニーズやウォンツを最も重視している。「半年後の商品を見せるキャットウォークトレンドを追いかけるのは当社の仕組みでは間に合わない」。その代わり、1年前に見えてくる素材傾向は注視している。

 各地の素材展を巡り、買い付けたテキスタイルの6割を本社倉庫でストックし、自社で裁断して各地の縫製工場に送る。ザラの店頭にトレンドに合うデザインや色、柄の商品が供給されるのは、素材段階のトレンドの先読みと客の声に沿った期中対応がうまくかみ合っているため。安易な後追いは「していないし、できない」という。

縫製工場に送る生地を無駄なく裁断するためにパソコン上でシミュレーションする

 インディテックス本社には、まるでショッピングセンターの1フロアのような一角がある。広い通りの両側に並ぶのは「ザラ」「ザラホーム」「ベルシュカ」など同社のストア業態のパイロットショップ。まもなく実店舗で販売する予定の商品をどうディスプレーし、トルソーにどんなコーディネートを着せるかを考えるのが役割だ。


■絶え間なく変える

 世界中のどの店にも共通する商品の見せ方、並べ方が決められ、撮影データが各店舗に送られる。商品が入荷した時点で店側はそれをどう陳列するか、理解している寸法。見せ方を自社で考えるのはネット販売も同様だ。本社に専用のスタジオがあり、各業態の商品を専任スタッフが、ネット環境で見栄えするよう工夫して撮影し、オンラインストアに上げ続けている。

 テレビCMも雑誌広告も打たない同社にとってECを含む店舗は、客に自社のブランドイメージを伝えるコミュニケーションツールでもある。新規出店と並行し、主要市場で旗艦店の大型化や好立地への移転などを絶え間なく進めるのは、実店舗の存在感を現状より際立つものにするためと言える。

 店の内装もニーズやトレンド変化に合わせて定期的に変える。店舗設計も自社で行い、ザラだけで設計担当は30人いる。客の声を反映する形で、15~20カ月サイクルで新コンセプトへ内装を切り替えていく。

 ザラは昨年も新宿店を含む大型店のリニューアルを相次ぎ実施したが、改装では機能性や来店客にとっての選びやすさ、買いやすさ、環境への配慮などの改善点を盛り込む。商品だけでなく、売り場環境も随時ニーズや時代に沿って変えなければ、客に飽きられるとの思いが背景にある。

 店頭業務の効率化にも力を入れている。一例がザラで導入したICタグだ。物流拠点からの各店配送の精度も上がったが、何より、店頭で商品の在庫の有無、所在が入荷時点、営業時間を問わず、端末で検索するだけで分かるようになり、接客サービスに費やせる時間が増えた。

本社にはディスプレーを考える仮装店舗、自社ECの撮影用スタジオもある


■デジタルは手段

 ファッション企業がトレンドや景気の影響に関わりなく、業績を永遠に伸ばし続けることは実質不可能だ。好業績を続けるインディテックスも例外ではない。だが同社は、数年先を見据えた成長戦略も常に描いている。例えば、過去4年で10億 ユーロ のデジタル関連分野への投資だ。

 その一環として稼働した本社のIT(情報技術)センターは、巨大なサーバーを有し、全世界の店、EC、生産など商売に関わる動きが各部署から随時集まり、その全てが巨大ディスプレーで一覧できる。24時間、全世界とつながり、必要な手を迅速に打つことが可能だ。

 ただ、この投資は、あくまで物流、生産、企画を本社の近くで行い、店頭の売れ行きやトレンドの変化に応じて必要な施策を最短時間で具体化する、という創業当時から貫く手法を時代に合わせて更新することに過ぎない。「熱意を持ってファッションを作り売る、その精度を高め続ける」。変わらぬスタンスが強さだろう。

全世界の店、EC、生産など商売に関わる情報が全てITセンターで一覧できる

(おわり)


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