尾原蓉子の23年全米小売業大会リポート 「ケア」と「信念」でブレークスルーを

2023/03/21 06:29 更新会員限定


NRF Big Show 2023 会場風景(NRF提供)

 NRF Big Show(全米小売大会)第113回は、改装されたニューヨーク・ジャービッツセンターで、23年1月15~17日、3年ぶりのフル・リアル開催となった。コロナ前よりスペースも拡大。展示企業1000社超、イノベーション・ラボも盛況。セミナー数は約175、講師350人超。世界75カ国・地域から3万5000人強が参加したという。特記事項は、初の「コンシューマー製品展示場」の設置。出品社の84%がマイノリティー企業で、NRFのDE&I(多様性・平等・包括性)重視の姿勢を明示。また、NRFアジア版の24年6月シンガポール開催を発表し、NRFの展望を開いた。

 振り返ると、20年はコロナ対応で小売り企業は大変革を遂げた。ECの急拡大やBOPIS、ソーシャル・ディスタンス。ビジネスモデルの変革やリモートワーク、それらを統合するDX(デジタルトランスフォーメーション)など、大胆な手を打った企業が多く、21年の大会もバーチャル開催ながら、ビジョン、パーパス、等が強調される、「共に前へ=Forward Together!」のテーマに見合う熱量の高い大会だった。

 22年大会は、コロナ対応にも慣れ、次なる飛躍に向けて「Accerelate=加速せよ!」と盛り上がった。多様なラストマイル対策、店舗のフルフィルメント・センター化などに加えて、メタバースやWeb3など、新たな潮流も浮上、期待が込められた大会だった。 

 今回の23年大会は、急激なインフレやサプライチェーン問題に苦労しながら達成したホリデー売り上げの前年比5.3%増はあったが、返品や過剰手配による巨大在庫を残し、経済の減速、困難な市場状況や人手不足など、多くの課題に直面するなか、ベンチャーキャピタルの投資意欲も低迷、新規起業の話題も乏しい大会となった。セミナー講師は、大物経営者や有識者が多かったが、将来への展望より、コロナ後の新環境でのビジネス深堀りを語る、堅実なものであった。

 他方、テクノロジーの進展・浸透は目覚ましく、急伸するライブ・ストリーミングやChatGPT(AIチャットボット)への注目。特にAI(人工知能)の多様な活用が拡大。イノベーション・ラボ出品53社のうち25%がAI関連(5社は社名にまでAIをうたう)。展示会場では、パーソナル化、犯罪防止、サイズ/フィット対応、アソシエイツ支援技術、などが関心を集めた。 

 消費者の購買意欲は、モノよりサービス(外食、旅行、イベントなど)に向いている。ただコロナ拡大で後退が危惧されたサステイナビリティー(持続可能性)意識は、逆に高まっている。

 今年のテーマは、「Breakthrough=突破せよ」。多様な問題やノイズ(雑音)を、自社の信念をもって果敢に突破せよ、だ。筆者の印象に残った4点を取り上げる。 

■NRF2023からの主要メッセージ

1.DE&I(多様性・平等・包括性)の進展

 今回最大の特徴は、人間性や人権重視に力が入っていたことだ。開幕冒頭の黒人の著名大学教授の登壇。「製品展示場」出品企業のオーナーは、84%が白人以外で女性・退役軍人・身体障害者・性的少数者だった。日本ではありえないこと、と深い感銘を受けた。

★ウォルマートCEO(最高経営責任者)とハーバード名誉教授——「信念と忍耐が人生の教訓」

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