大統領選まであと1カ月弱!(杉本佳子)

2020/10/08 06:00 更新


注目のアメリカ大統領選挙まであと1ヶ月を切った。

今年ほど注目を集め、混とんとした大統領選挙はなかっただろう。

ファッション業界でも、今まで見られなかった動きが出てきている。

それは、積極的に投票を促す動きだ。

サクスフィフスアベニュー本店の正面ウインドーには、「VOTE」(投票)の文字と共に、「ここで(有権者)登録ができます」の案内が大きく掲げられている。

≫≫杉本佳子の過去のレポートはこちらから

サクスフィフスアベニュー本店2階の化粧品売り場の正面に、有権者が登録できる場が設けられているのだ。


 そのサクスフィフスアベニュー本店の向かいにあるマイケルコースの直営店では、「YOUR VOICE MATTERS」(あなたの声は重要ですの意)のスローガン入りTシャツとバッジが売られている。

同じ5番街にあるプーマの直営店でも、投票を呼びかけるスローガンを入れたTシャツが売られている。アメリカのブランドでなくても、アメリカの時勢に合わせてこうした商品をつくっているブランドがあるのだ。

ブルーミングデールズはVOTEと白字で大きく入れた黒い特注マスクを販売していたが、このマネキンがつけていた分も含めて完売したという。ブルーミングデールズのウエブサイトでは買える商品で、11月3日の投票日までの間に限り、小売価格18ドルのうち10ドルが非営利団体「When We All Vote」に寄付される。When We All Voteは、人種や年齢における投票率の差を縮めることをミッションに掲げた団体だ。2018年にミッシェル・オバマ、トム・ハンクスなどが主催メンバーになって発足した団体である。ノードストロームもこの団体とパートナーシップを組み、投票を促すキャンペーン「Make Your Voice Heard」(あなたの声を届けようの意)を展開している。

2018年は、「Time to Vote」という、従業員を投票に行かせる団体が発足した年でもある。その活動のもと、パタゴニア、リーバイストラウス&カンパニー、Jクルー・グループ、ウォルマートなどアメリカの多くの企業はすでに、投票日(火曜日)に従業員が投票に行きやすいように店やオフィスを閉めたり、営業時間を短縮したり、投票に行く時間を有給休暇扱いにしたりする動きをとっている。Time to Voteには、現在700以上の企業が名を連ねる。そのうち200社以上は7月以降に加入した企業で、メーシーズ、ナイキ、スティーブマデン、スティッチフィックスなども含まれている。トリーバーチとオールドネイビーは、投票日に開票作業のボランティアをする従業員を有給休暇扱いにする。

9月に行われたニューヨークファッションウイークで、ニューヨークのデザイナー、クリスチャン・シリアノは、白字で大きくVOTEの文字をランダムに入れた黒いロングドレスを見せた。モデルが被った黒い帽子にも、VOTEの文字が入れられていた。

最近某メディア主催のウェビナーに登場したプラバル・グルンは、VOTEの文字を大きく入れたTシャツを着ていた。

VOTEの文字を入れたTシャツはリーバイス、トリーバーチ、ギャップ、アーバンアウトフィッターズ、Jクルー傘下のメイドウエルもつくっている。フットロッカーは、若者の政治参加を促す非営利・無党派の団体「ROCK THE VOTE」とパートナーシップを組み、店内で有権者が投票のための登録をできるようにしている。大手ディスカウントチェーンのターゲットは、「Voting for the Future」「Your Voice Your Vote」などのスローガン入りTシャツを販売している。

ちなみにウーバーは11月3日の投票日、投票のためにウーバーを利用するお客に割引を提供するとしている。(投票に行くかどうかをどう見極めるのか、割引率をどうするかなどの詳細は不明)ウーバーとウーバーイーツは、投票所で行列する人たちにピザを無料で配布する計画もしているという。

この動きの背景には何があるのだろう。

アメリカでは、ジェネレーションZ(1990年代後半以降に生まれた世代)がミレニアルズに続く大きな市場として注目度を高めている。ブラック・ライブズ・マター運動の中心となっているのはジェネレーションZとミレニアルズで、デモの参加者は黒人だけでなく白人の若者も非常に多い。不公正、不平等に非常に敏感な彼らに対し、ブランドとして彼らの声を尊重する姿勢をみせることは、ビジネスにかかわってくる。フットロッカーのように、特に若者をターゲットとしている団体と組んで店内で投票に必要な登録ができるようにしているということは、「若者の声を尊重している」「若者の声が反映されやすい社会づくりの手助けをしている」という企業の姿勢をみせることにつながるといえるだろう。

個人的には、投票率を上げることに貢献することは、エコやサステイナブル、劣悪な労働環境廃止と同じくらい、企業の社会的責任の一端を担うと思う。投票を促す団体がいくつもあり、企業が連携する例が増えていることを考えると、アメリカでは、よりよい社会にするため、民主的な社会にするために、まずは選挙権行使を促し、投票率を上げることに企業として貢献することが重要という考えが広がってきているように感じられる。「Social Justice」(社会正義)という言葉も、今までになくよく聞くようになっている。企業として、社会正義のために何をしているかをお客に示すことが、かつてないほど重視されているのだ。「何もしないのが一番リスキー」という声すら聞かれる。

ニューヨークで、あるいはアメリカで起きていることは、いずれ日本にも広まることが多い。企業として、ブランドとして、投票を呼びかけるこの動きが日本でもいつか出てくるのだろうかと、大統領選の結果と同じくらい関心をもってみている。

≫≫杉本佳子の過去のレポートはこちらから

89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ



この記事に関連する記事