《連載 これからの幸せのかたち・ファッションビジネスが続くために ダブルエー㊤》おしゃれ楽しむ気持ち共有 売り場から育てる愛社精神
作り手のセンスや販売員の情熱が問われるファッションビジネスを成就させるのは、〝好きこそものの上手なれ〟の精神。おしゃれを楽しむ気持ちをどれだけ社内で共有し、伝えられるか。時代は変わっても、原点を忘れない企業には、人材も消費者も付いてくる。
(須田渉美)
15年前に婦人靴の「オリエンタルトラフィック」で創業したダブルエーは、直営店の数が80を超えた今も成長し続けている。16年8月期に年商100億円を達成、その原動力は全社員が常に現場に向き合う姿勢に尽きる。
◆本社勤務も店頭に
店舗スタッフはアルバイトを含めて450人近く。本社勤務は約50人だが、基本は販売職の出身者だ。販売を経験しているからこそ、現場との一体感がある。今も「本社勤務でも週末の1日は店頭に立つ」のが日常業務。企画を担当していても、判断材料は全て売り場にあるからだ。デザイナー専任という肩書きはない。
5人の企画チームが、デザインとともに、品質管理やVMD、販売促進など消費者の手に届くまでを組み立てる。少数精鋭の守備範囲の広さが、変化にスピーディーに対応できる要因でもある。1シーズンに商品化するのは80型に過ぎないが、売れる要素が詰まっている。「客の顔が見えると好きなものが分かる。どんな素材を使ったらいいか、店でどう販売したいか」。店頭のスタッフに指示するところまで頭に入れて商品を考える。
◆管理職をなくす
社員のほとんどが「ファッションが好き、オリエンタルトラフィックの商品が好き」で販売職を志望し、アルバイトも含めて離職率は極めて低い。「結婚や出産を機に辞めることはあっても、転職する人はいないし、関東地区はこの半年、辞めた人がいないのでは」という。10年のキャリアを持つ販売員も多い。最大の強みは、一人ひとりが愛社精神を持てる働き方だ。商品に意見があれば、「アルバイト、正社員を問わず、半年に1回の企画会に立候補制で参加できる」。常に現場と気持ちの共有を優先して組織を作り上げる社風がある。
昨年は、組織変更で管理職をなくした。「部長や課長の管理業務に捉われると、現場が遠くなってしまう。店頭から社長までの距離を縮めたい。誰もが意見を言いやすいフラットな関係でありたい」。そう話すのは、ブランドディレクターの新井康代取締役。もとは商品本部の部長だ。
「振り返った時に、販売、商品、ブランドが好きと思えるようなマインドを持ち帰られる内容を考える」と、店舗運営の坂本佳津江シニアマネジャーは言う。半年に1度、販売に携わる全スタッフを東京に集める研修会は、接客スキルや売上高目標などの日常業務の実習にとどまらない。「研修内容よりも、〝好き〟を崩さないにはどうしたらいいか。異なる視点で仕事って楽しいと思える」講習をそのつど計画する。時には外部の講師も招き、メイクの講習会を行ったこともある。「女性として輝きたい気持ちは誰もが持っているし、おしゃれをする楽しさをもっと知ったら働く意欲も湧いてくるかなと」。実際、講習を受けた後に「ヘアアレンジが上手になり、みるみる可愛らしくなって華のある存在になったスタッフも」いる。接客にも自信が備わるようになったという。
研修の最後には、ロールプレイングを必ず行う。確認するのは「来店客と好きを共有する姿勢」。1人当たり1日平均で30人から50人を接客しているオリエンタルトラフィックのだいご味でもある。まずは自分自身が楽しんでいることをリアルに伝える。その結果、数字は着実についてくる。