■獣毛(じゅうもう)と羊毛(ウール)の違い
ウールは、優秀な衣料用の繊維です。原料となる羊は長い歴史の中で改良が続き、世界中に約3000種います。この羊以外の動物の毛を、一般に「獣毛」(じゅうもう、animal fiber 、animal wool)と呼んで、ウールと区別しています。素材の混率でも大事な指定用語は、「カシミヤ」「モヘア」「アルパカ」「キャメル」「アンゴラ」だけで、それ以外の毛は「毛」と表示します。
特に有名なのが、カシミヤ(cashmere)ですね。チベット原産とされるヤギの一種(写真下)で、ヒマラヤ山麓(さんろく)の盆地、カシミール地方のショール(織物)から、原料の毛も同じ名で呼ばれるようになりました。今は中国、モンゴルなどで飼育されています。
このヤギは、体の表面に現れる太くて硬い毛と、その毛の根元に近いところの短くて柔らかい毛(それでも約4~9㌢)の2種類の毛からなっています。 後者がカシミヤの原料で、春になると、自然に抜け落ちる毛を梳(す)いて使います。1頭から、わずかしか集められず、世界の生産量も1年に約1万5000㌧で、ざっとウールの150分の1程度。
昔から非常に希少で、ラグジュアリーな素材と位置づけられています。繊度(繊維の太さ)は約14~19.5㍈で、ファインウールよりも細く、柔らかで滑らか。毛の色が白に近いほど高価で、グレーや茶、黒など、色や繊度でランク付けされて流通します。
■モヘアは山羊の毛、アンゴラは兎の毛
最近、トレンド素材に浮上しているモヘア(mohair)やアルパカ(alpaca)も獣毛です。 モヘアはアンゴラヤギの毛で、ウールよりもかなり太く、独特のハリが特徴です。強い光沢や吸湿性という長所もあり、上等なサマースーツなどに使われてきました。名前は原産地とされるトルコの首都、アンカラに由来します。白くて滑らか、長い毛で、これに似ているために、名づけられたのがアンゴラウサギです。紛らわしいですが、モヘアはヤギの毛、アンゴラはウサギの毛です。
アルパカはラクダ(camel)科の動物で、南米ペルーやボリビア、アルゼンチンなどの高地の特産です。約20とも言われる豊富な色が持ち味で、淡いものほど高価です。光沢と滑らかさ、ウールの3倍という丈夫な点も見逃せません。ビキューナ、リャマ、ガナコなどの兄弟分もいます。
獣毛はアニマルウール(アニマルヘアとも言う)を訳(やく)したものです。アニマルという言葉は印欧祖語※で「風や空気」から「呼吸、息」を意味するようになった「アネ」が、ラテン語に入って派生したとされます。
風から発展して、植物に対する動物の意味になり、「生命、生き物、魂」まで拡大しました。アニマルは「生きとし生けるもの」(=この世に生きているすべてのもの)を示すわけです。日本語の生き物も、「いき」(呼吸、息)からきていて、同じ発想なのですね(文:繊研新聞社編集局総合1面デスク・若狭純子)。
※記録などによって実在が証明されている言語ではなく、実際にいたインドヨーロッパ語族の諸言語から、厳密な比較言語学的手続きによって帰納的に推定された言語のこと
【THE NUMBER】
150分の1⇒カシミヤの生産量はウールの150分の1と希少 20種⇒アルパカは豊富な色が特徴で淡い色ほど高価と言われる。丈夫さはウールの3倍