UAゼンセン製造産業部門は7、8月に実施した価格転嫁についての第4回調査に基づき「価格転嫁の状況等に関する調査報告」をまとめた。それによると、賃上げなどにつながる労務費の価格転嫁は進みつつも、必ずしも十分ではない状況が示された。
労務費の価格転嫁は23年12月~24年1月に実施した第3回調査では転嫁率2割未満が8割を占めており、深刻な状況が示されていた。今回の調査では転嫁率8割以上が4割を超え、改善している。業界内に、「企業努力で吸収すべき」という認識は根強いが、変化をうかがうことはできる。
ただ、転嫁率を原材料費やエネルギーコストと比較すると、「2割程度」「ゼロ」の割合が多く、弱含みなのは否めない。また「5割程度」が最も多いなど不十分な状況にとどまっている。
労務費の価格転嫁を進めるのはデフレからの脱却や賃金と物価の好循環に向けた共通認識の広がりといえる。政府は発信を強めているが、例えば23年11月に公正取引委員会が示した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」については、認知は7割で、100人未満の職場では5割に達していないなど、もう一段の広がりが求められる。
UAゼンセン製造産業部門は、繊維素材や繊維加工などの業種を組織している。22年までの10年間は平均0.39%のベースアップにとどまったが、23年は1.95%となり、24年には2.60%に達しており、物価上昇に追いつこうとしてきた。しかし、この2年間で大手と中小の格差が広がっており、3000人以上の職場と100人未満では約1万8000円の差が生まれているという。中小の多くは下請け型の企業であることから、その労働条件の改善には労務費の価格転嫁が欠かせない。
25年春闘はUAゼンセンとして中小の賃金水準を引き上げて格差を是正する構えで、個別支援を含めた活動を展開するとともに、労務費の価格転嫁を促進し、賃上げの条件整備にも力を注ぐ。