靴の展示会MICAMでのジャパンブース(坪内隆夫)

2016/10/28 14:51 更新


あっという間に時間が経ち、気がついてみるともう1年ほど更新していませんでした…。もう少し頻繁に書いていけるよう努力します。

6月のメンズのPITTI UOMOから始まり、長く続いたSS2017のセールスも先週最後のアポが終わり、今はいただいたオーダーのコンフォメーションを出している最中です。

■どのマーケットも大変

ミラノやパリで販売の仕事をしていると、いろいろなショールームやブランドから世界中の生の情報が入ってくるのですが、今シーズンはどこのマーケットも大変そうで、残念ながらあまり明るいニュースが入ってきませんでした。

2000年代後半はロシアが良くって、どこのショールームに行ってもロシア向けのコレクションがたくさんあったのですが、2010年代に入るとそのロシアも悪くなり、そのあとはみんな次はどこだ?、って新しいマーケットを探していました。

例えば、中国が良いのでは、とみんな中国をめがけて販売し始めていましたが、いきなりたくさんのオーダーがはいったかと思うと、その次のシーズンは全くオーダーがなかったり、中国人との仕事のやり方の違いなどで色々と大変だったみたいですが、それでもちゃんと仕事ができたところもあるにはあります。

その中国も最近はあまりパッとせず…。日本のマーケットに関しては今シーズンは全く良いことを聞きませんでした。たくさんの日本人を見るパリの展示会でも、いつもほど多くのバイヤーを見かけませんでしたから。

今回のパリの展示会は賑やかさに欠けていました。実際のところはよくわかりませんが、やはりテロの問題もあるとか。そういえば、今回のミラノのファッションウィークはタクシーもかなり捕まえにくかったし、いつもはあまり人が来ないパリのファッションウィーク最中でも、わたしが手伝っているミラノのショールームはとても忙しかったとのこと。

 


展示会の様子

 

暗い話はそこまでにして、9月の初めにミラノで世界的にも最大規模の靴の展示会MICAMがありました。そのMICAM内のジャパンブースの販売コーディネートをさせていただいて今回で5回目です。

海外の大きな合同展示会の中で行われているジャパンブースはなかなか良い結果を出せないものですが、このMICAMのジャパンブースは回を重ねるごとに内容が良くなってきていて、今回はとても多くの来場者がありました

このジャパンブースのスタイルを確立し、分かりやすいブースにするために出展ブランドのテーストを揃え、オリジナリティーがあり若々しいコレクションで固めました。来場者もだいぶジャパンブースのことを覚えてきてくれ、毎回足を運ぶバイヤーも多くなってきています。

そこで、展示会でどんなブランドが海外のお店から反応が良いのだろう? 自分なりに分析してみましたところ、以下の3点が特に重要なところだとの結論に至りました。

*デザイン・企画力

*価格設定

*(展示会前の)準備

 


 

デザイン、企画力

これは一番大切なところ。デザイン、企画が悪いと誰もコレクションを見てくれません。コレクションが良くって、バイヤーが気に入ってくれて初めて、次のステップに入っていけますから。

日本のブランドを海外に持ってくるとどうしても値段が高くなってくるので、値段勝負ではなく、オリジナリティーで勝負しなければなりません。他には無いオンリーワンの商品を作るということで、価格というハンディーキャップを克服しなければなりません。

展示会が始まる前に、出展者に対して、海外のバイヤーはどの商品が好きだと思う?と聞くのですが、だいたいポイントがずれているようです。海外で好まれる商品がわかっていないのです。これも重要なことです。何度か出展していたら、だいたい海外のバイヤーの好みもわかってくると思います。

値段設定

やはり日本で物作りをしているブランドを海外に持ってくると、送料、関税、エージェントがいればそのコミッション、ヨーロッパの高い消費税(イタリアの消費税は22%)、それにヨーロッパのマークアップを入れると、日本の上代の倍ほどの値段でヨーロッパのお店に並ぶことになります。

ヨーロッパのお店のマークアップは、ヨーロッパでの卸値 ×2.7~3.0、 卸値100ユーロ(消費税含まず)のヨーロッパの商品は上代270~300ユーロ(消費税込み)になります。ただ、この値段だとなかなかお店も売れないので、日本の商品はそれほどマークアップをあげていないところも多いです。

こんな感じなので出来るだけ値段は抑えるようにしたほうが良いです。ただ、その全く逆を言うことになってしまいますが、安く作るためにクオリティーを落としてしまうと日本の商品の良さがなくなってしまうので、値段が少し高くなったとしても、他とは違ったオリジナリティーのある商品を作ったほうが良いです。

海外のバイヤーが価格が高かったとしても日本ブランドを買うのは、デザインを含めたそのクオリティーの高さへの期待です。なので、品質を下げ、ある程度値段の安い商品を作りヨーロッパに持ってきたとしても、落としたクオリティーの割に結構高い上代になり、とても中途半端な価格帯になってしまいます。

■日本のファクトリーブランドにも可能性

日本のブランドを海外に持っていくと安い値段ではまず出せません。ですので、出来るだけ企業努力をしてオリジナリティーのある良い商品をある程度の値段に抑えることが必要だと思います。

日本ではしっかりマーケッティングをしているのに、いざ海外進出になるとなんでこんなになってしまうんだ?といった全く戦略も何も無いブランドをよく見かけます。日本のファッションビジネスは大変なようですが、海外に行っても同じ、日本よりも所得が少なく、海外ブランドも多く競争相手の多いヨーロッパも同じく大変なのです。

クオリティーの高い日本の工場もオリジナル商品を作れるようになれば結構可能性あるんだけどな? 大変大変とはよく聞くけれど、実際にはあまりそういった工場を見かけません。イタリアには他のメーカーの商品を作っていたのにあまり儲からないからって、自分たちのコレクションを始めた工場がとても多いです。工場から始まったのに感覚も良く、結構頑張っているところがたくさんあります。

 

□展示会のテーマコーナーの動画


展示会前の準備

ほとんどのヨーロッパのお店は日本の商品を買ったことがありません。ヨーロッパの中ではイタリア、フランス、ドイツなど、他の国の展示会に行って商品を買うことはありますが、どこで買っても通貨はユーロだし関税も無いので、同じ国の商品を買っているのとさほど変わりません。

そんなヨーロッパの人に商品を販売するのですから、出展するブランドのほうがあらかじめきちんとお客さんにわかりやすいように準備をしていないと、ヨーロッパのお客さんは商品を買ってくれません。それが理由で販売につながらないことも結構あると思います。

せっかく良いコレクションを作って、わざわざヨーロッパまで来てもそれが問題で販売につながらないのはもったい無い!ヨーロッパで売るなら価格はユーロで、日本出しの卸価格のFOBではなく、送料と関税の含まれたDDP価格で表示したほうが、バイヤーが最終いくらで商品を店頭で販売するのかすぐにわかるのです。

価格が高い、前払い、コミニケーションが取りにくい、輸入するのがめんどくさい、サイズが合わないなどなど、ヨーロッパのお店が日本のブランドを買うのにはいろいろな障害があります。それでも買ってくれるようなコレクション作り、販売準備などをしていかないといけません。

■なんとなく出展しても売れることはまずない

一般的に大きな合同展示会のジャパンブースは無料、もしくは出展料が安くなる、ということで出展することも少なくないと思いますが、実際はそんなに効果が出ないものです。

1回出展してすぐにたくさんのオーダーがつくわけもなく、海外ということで全てが初めての経験かもしれませんが、出展して、なぜで売れなかったのか、どういったところが海外のバイヤーに受けたのか、それさえもわからず日本に帰ってきた出展者も多いのでは無いでしょうか?

それがわからないといつまでたっても良い結果は残せません。毎回問題点を見直し、次の展示会で前回よりも良い結果を出せるように改善し長く出展し続けることで新しいマーケットが開けていくのです。

MICAMのジャパンブースでは、展示会の前に値段の出し方、出展にあたりどういった準備が必要かという説明もあり、展示会中は会場にヨーロッパの有名ブランドの販売をしてきたベテランスタッフがいろいろなアドバイスをしてくれます。

そのMICAMのジャパンブース、公募が始まりました。来場者がブースに入ってくるようにいろいろな工夫がなされ、出展者への販売のサポートも付いているMICAMのジャパンブース、チャレンジしてみてはどうでしょうか?



坪内隆夫 つぼうちたかお 東京モード学園デザイン学部卒業後渡英、1年後に渡伊。デザイナーとして活動をはじめ、ミラノにてオーダーショプ「TAKAO MILANO」をオープン。2004年2月から2007年9月まで年に2度、ミラノ市の協賛を得て、ミラノファッションウィーク開催中に新人デザイナーを中心とした展示会UPSIDE MILANOを主催。その後、ミラノのショールーム、ファッションガイドブックへのコンサルタントを行い、2012年1月のPITTI UOMOから日本のメンズブランドのヨーロッパでのセールスプロモートをするプロジェクトJAY PROJECTを開始する。



この記事に関連する記事