香る南仏モード フラゴナールの旅(松井孝予)

2016/07/12 15:05 更新


■パルファンのスタートアップ

 一度は行ってみたかった南仏グラース

香る手袋の産地だったこの地方は、18世紀から香水の産地として、その名は世界に響き渡る。ここに1926年前、リヨンからユジェーヌ・フュシュという公証人が越して来た。

彼は香水の魅力にとりつかれ、起業家への転身を決意。ツーリストが香水のアトリエを訪問し、そこで香りの製品をショッピングできる、パルファンのスタートアップを設立。

グラース出身の18世紀のロココ美術を代表する画家ジャン=オノレ・フラゴナールにオマージュを捧げ、「フラゴナール」と名付けた。

 ■香りからライフスタイルへ

 ” Fragonard 90 ans de Parfum 1926 / 2016 ” 展覧会「フラゴナール パルファンの90年」

 今年創業90周年を祝う企画展、そして同メゾンの香水美術館と工場を見ようと、パリからグラースへ。山間にある小さな町の目抜き通りにフラゴナールの美術館、工場、いくつかのブティックが並び、南仏らしいその風景には、誰もが魅了されるだろう。

その一角にある同メゾンが経営するカフェレストランに到着すると、4代目のコスタ3姉妹の長女アニエスさんと次女フランソワーズさんが迎えてくれた。経営者をイメージできないほどの、開放的な笑顔。

 

 
コスタ姉妹(アニエスとフランソワーズ)  © Fragonard Parfumeur

 

90年続くファミリー経営の秘訣はと尋ねると、分かち合うこと、平等であること、と姉妹は口を揃えて答えてくれた。誰が先に生まれたなんか、姉妹の間では関係ないそうだ。

彼女たちの父、故ジャン=フランソワ・コスタは、18世紀の美術品(特に、もちろんのことフラゴナールの絵画)の収集に情熱を注ぎ、その素晴らしいコレクションをみんなで分かち合いたいと、美術館を開設し一般に無料開放している。

アニエスさんとフランソワーズさんは、テキスタイルに情熱を傾けた母の血を引き継ぎ、東南アジアに旅を重ねながら、刺繍のすばらしい職人たちと親密な関係を築いてきた。アパレルブランドのパルファンデビューは今や当たり前のことだが、フラゴナールはその逆。


 
1925年のアトリエ © Fragonard Parfumeur

 

このパルファンメゾンは、フランス企画・東南アジア生産の良品適価のレディスプレタポルテ、キッズ、メゾンのコレクションを、パリやグラースのブティックで販売し、大人気。三女のアンヌさんは皮膚科のドクターを取得し、フラゴナールのスキンケアラインを立ち上げた。

展覧会「フラゴナール パルファンの90年」では、フラゴナールが開発した世界初の錫製フラコン「レスタゴン」、夜に咲く花を香水にした「ベル・ド・ニュイ」などの代表的製品を紹介しながら、ファミリー経営でライフスタイルにまで広がった同メゾンの歴史を紹介していく。


  
「ベル・ド・ニュイ」の展示ケース

 

■グラースとパリで 香りの秘密を見学!Les Usines et Musées Fragonard

フラゴナールは南仏にある3つの工場見学を無料
 フラゴナールは南仏にある3つの工場見学を無料

開放している。香水の製法を実際にみるまたとないチャンス! グラースの工場には香水美術館も併設され、ここではフラコンや原材料、香水にまつわる貴重なオブジェの数々を展示している。 


 
昔々の香水 


香水になる前のお花たち

 
蒸留

 
ここではフラコンにラベルを貼付け 


鶏から卵、この機械から石けんが生まれる

 

南仏だけではない。パリ・オペラに3つのフラゴナール美術館 / Les Musées Fragonard が!

昨年オープンした ル・ヌーヴォーミュゼ・デュ・パルファン / Le nouveau Musée du Parfum では、アンティークフラコンのコレクションや香水の製造過程が見学できる。10月31日までグラースと平行し90年展も開催!

 【インフォメーション】 詳しくはこちらで(英語)

■展覧会「レースと装飾 19世紀の洗練された南仏婦人」 DENTELLES ET PARURES  Précieuses provençales  

 

 
モードで南仏タイムトリップ

 

プロヴァンスのテキスタイルや衣装、装飾品のコレクターだったフラゴナール3代目ジャン=フランソワ・コスタの妻エレーヌは、グラースの本社の一角に、南仏コスチューム&ビジュー美術館を開設。

今この美術館で同メゾン創業90周年を祝う企画展「レースと装飾 19世紀の洗練された南仏婦人」が開催されている。

 

 
コットンプリントのローブ グラース1829〜30 モスリンのカヌズー(大判ショール)1830〜35

 

1780年あたりから雑誌の普及により、プロヴァンスのブルジョワ婦人たちは、パリジェンヌのモードに影響を受け、地元の洋裁師に、プロヴァンス特有のテキスタイル、シルクやモスリンに、レースや刺繍を贅沢に施したローブをオーダーするようになった。

 

 
シルクタフタのローブ グラース1860〜65

 

この展覧会では、パリの美術館ではお目にかかれない(なのでとっても新鮮)貴重なエレーヌのプライベートコレクションを中心に16シルエットをセレクション。当時の雑誌やデザイン画などの資料を添え、エレガンスにそして洗練されたプロヴァンスのモード革命分かりやすく教えてくれる。

 

 
モスリンのフィシュ(三角形のスカーフ)に手で施した刺繍 1850〜70

 

【インフォメーション】 Musée Provençal du Costume et du Bijou

12月31日まで




松井孝予

(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。



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