パリ食研新聞 「左岸の話食」(松井孝予)

2014/09/25 15:09 更新


こんなのがあってもいい、と思い勝手に立ち上げてしまった_ 「パリ食研新聞」

第1話は、パリ「左岸の話食」

 パリ左岸ル・ボン・マルシェで開催中の大イベント「ル・ジャポン リヴ・ゴーシュ」展。パリでよく開催されるステレオタイプで飽き飽き気味だった「日本展」の殻をぶち破り、ジャパン・ヌーヴォー現象を起こしている。

同百貨店の食品館、ラ・グランド・エピスリー・ドゥ・パリ(長いので以下LGEDP、でもなんか美味しそうに見えないのでやっぱり略称はグランド・エピスリー)も、ありきたりに「寿司食いねぇ」なんて勧めない!

ああ、日本人の持つ美しき食のクリエイション、センス、イマジネーションよ…グランド・エピスリーは今、ポエティックガストロノミーンダーランド!

 ■HIGASHIYA と BAR A THE OGATA

 

 
バー・ア・テ 緒方さんの日本茶バー

 

グランド・エピスリーの「玄関」に開設された、和菓子店HIGASHIYA と和食レストラン、プロダクトブランド「Sゝゝ(エス)」を展開するクリエイティヴディレクター緒方慎一郎さんがプロデュースした日本茶バーから、左岸のガストロノミーの旅がはじまる。

お持ち帰り用には、汽車の旅の友、あの懐かしいプラスチックの容器入りの「茶」。

 

 
お持ち帰り用のお茶

 

でもレトロではない。容器に紙の羽織を着せた、モダニズムな ” The ” (テ/お茶)。

バーに並ぶ茶器を見ていると、伊モデナの画家ジョルジョ・モランディ(1890?1964)の卓上静物画を思い出す。モランディがまだ生きていたとしたら、ここで煎茶を味わいながら、器を描いただろう。

お茶をいれてくださるのは、このバーのために福岡市からきているレストラン万(よろず)のウイヨー・ユミさん。お茶を待つ時間がなんとも気持ちがいい。「いつものを2つください」と、粋なオーダーをするパリジェンヌの姿も。

■スター菓子

ヒガシヤ(日果子屋)さんでお茶をいただいたら、次は「ル・ジャポン」展の食のメインコーナーへ。

 

 
メインコーナー

 

一保堂、アコメヤ、ヒガシヤの和菓子の中に、「えっコレ何?」と手が出るグラフィックなパッケージが。「ももたん」って、ケスクセ(これ、なあに)? 「かわいい、うれしい、おいしい、あたらしい岡山のおみやげ」だそうだ。いいな。

 

 
ポップアートギャラリーのようだ


そしてコレ、女王製菓。 



 「パンがなければ女王製菓を食べればいいのよ」と、マリー・アントワネットは言うだろう

 

ネーミングだけでもシビれてしまうが、パッケージは笑っちゃう前に驚嘆の渦。「ももたん」と同じナショナルデパート傘下ブランドらしい。

LVMHやケリングの傘下ブランドはすらすらでてくるが、もっとこのお菓子デパートを勉強せねば。京都の飴屋「クロシェ」は、フランスのエスプリを伝統の製法で美人さんのボンボン(飴)に。売り切れてしまった。

 

 
美人な飴 クロシェ


■パティスリー

このイベントの招待シェフ、関根拓さんによるラ・フランスとル・ジャポンの素材をマリアージュ(結婚)させたパティスリー3種。連日あっという間の完売で、早起きは三文の徳パティスリー版とばかり、午前中にグランド・エピスリー走りをしたお方も少なくない。

一番人気は、” Mont Fuji” 富士山。モンブランがマロンクリームなら、モン・フジはマロンx小豆のクリーム、その真ん中に餡。舌をプチ平手で叩くように、メレンゲに塗ったユズのコンフィチュールが利いている。ボン・マルシェ社内にも熱いファンが多い。

 

 
パリジェンヌたちに攫われる前に撮影した「モン・フジ」

 

北斎が180年前に描いた『赤富士』が印象派に衝撃を与えたように、関根拓作の小豆栗の山はパリ菓子界を揺さぶる。フランス伝統菓子、「パリ・ブレスト」をここでは「セーヴル・トーキョー」に変化させた(注/ボン・マルシェはセーヴル通りにあるので)。

ルックスは、自転車の車輪から、シュークリーム2段重ねルリジューズ風。甘さ控えめクリームパティスリーと大豆クリームに、蕎麦の実のプラリネで飾ったシューのシャポーが載っている。

 

 
「セーヴル・トーキョー」

 

フランス人にとって馴染み深くない素材なので、味の謎当てゲームが楽しめてしまうパティスリーかもしれない。それにしても大変上手にシューを焼いている。レシピとコツを教えて。

そして「ユズマニア」。ソールドアウトの壁が高く、未体験食のまま。パルドン!

■LA TABLE  ラ・ターブル

グランド・エピスリー1階(日本式で2階)のレストラン「ラ・ターブル」では、関根シェフによる創作キュイジーヌ。ユズマニアだけでなく、ここも未経験。

同展は10月18日まで開催なので、パリコレ出張のみなさん、ここで食経験はいかがでしょう?(そんな時間ないの知ってるくせに、ねっ)。

それならお夜食用に、同館ゼロ階で大好評販売中の、関根シェフ考案の山椒とラルドン(マッチ棒形ベーコン)のパン、菓子パン、ミソとオリーヴのパンなどはいかがでしょう?

山椒はポスト山葵と読んでいたが、エピ(穂)型パンになって現れるとは。現在取り組んでいる研究課題は、この山椒パンに合うワイン。なかなか見つからない。

 それでは BON APPETIT !

ボナペティ!(食を楽しんで!)



松井孝予

(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。



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