空を見にボンマルシェへ(松井孝予)

2018/02/09 16:30 更新


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百貨店に空

「空でも見なさい。あの雲、何かに似ている、なんて考えているうちに気分が軽くなってくるから」。いつだったか憂鬱な顔をしていたとき、ある人がこんなことを教えてくれました。歌の文句のようですよね。

空を見上げてごらんなさい、なんて。簡単なことですが、あの雲が麒麟に似ている、とか、羊の群れみたい、とか連想ゲームしていると、ストレスが少しずつ空へと蒸発していく。

ところがパリは冬になると、空色はいつもグリザイユ(灰色トーン)。教えてもらったこの空テラピーができないと思いきや…左岸の百貨店ル・ボン・マルシェのヴェリエール(ガラス張りの天井)が青空になっているではないですか。

エスカレーターがラビリンスに!天井が空に!これがボンマルシェの現実
ⒸGABRIEL DE LA CHAPELLE
空の色は、ガラス屋根から差し込む光によって変化しますⒸGABRIEL DE LA CHAPELLE
飛行機が飛んでゆく

売場から視線を上げれば、青空に雲、飛行機も飛んでゆく、鳥たちが羽ばたいてゆく…そんな風景が広がっているのです。

1階のコスメティック売場には、お花見シートならぬ青空鑑賞マットが。空へのイリュージョンの旅を見るように、心地よくなって眠ってしまいそう。

コスメ売場には空鑑賞マットが

ボンマルシェに空を創造したのは、アルゼンチン・ブエノスアイレス出身のアーティスト、レアンドロ・エルリッヒ。

金沢21世紀美術館の光庭のひとつに恒久展示された彼の作品「スイミング・プール」(2004年作)の内部に入った方もいるのでは。森美術館では4月1日まで、彼の過去最大の個展が「見ることのリアル」が開催されています。

エルリッヒは、ボンマルシェからカルト・ブランシュ(白紙委任状)を受け、同店のセーヴル通りショーウィンドーに「雲」、本館1階に「動かない」エレベーター、天井に変化する「空」からなるインスタレーション " SOUS LE CIEL スー・ル・シエル 空の下 "を創作しました。

吹き抜けになった動かないエレベーターⒸGABRIEL DE LA CHAPELLE

そうそう、カルト・ブランシュ(白)にひっかけるようにボンマルシェからエルリッヒに唯一の条件が。それは創作で「白」に特権を与えること。

なぜならボンマルシェの創設者アリスティッド・ブシコー氏が、クリスマス後にスタートするフランス商業界の伝統ベッド・バス用品の販売促進月間「白の月」を考案したから。「空の下」では雲がそのエレメントになっています。

ウィンドーに浮かぶ雲ⒸGABRIEL DE LA CHAPELLE

ボンマルシェでは毎年1月にコミットメントアートの展覧会を開催するのですが、2016年のアイ・ウェイウェイ展では白のドラゴン、そして昨年の塩田千春展ではこのアーティストが初めて白い糸で船を編み、大きな話題となりました。


イリュージョニスト エルリッヒ

エルリッヒの作品は、「スイミング・プール」しかり、私たちがいかに常識や規制概念に捕われているか、ということをアートを楽しみながら気づかさせてくれます。

ここボンマルシェでも天井を空にしてしまったエンリッヒなのですが、彼はボンマルシェのインタヴューでこのように話しています。

「日常の視覚を混乱させることがこの展覧会の目的ではありません。大衆が見ているものが現実かウソかを問いただしてほしい。手品師とは反対に、私はこのインスタレーションで種も仕掛けも見せています。人間の咄嗟の反応が、本当か偽りか模造かを判断します。現実は人間のコンセプションでできている。技術的、科学的、または観念などの要素が現実の境界線を配分しているのです。だから明白なものなど何一つない。ドバイでスキーとか、パリプラージュで日焼けとか。すべてがこれから可能になる!」。

エンリッヒはアートと呼ばれる手段で、実は単なるボックスでしかないエレベーターや、プロジェクションによる空で私たちを概念や常識の凝りから開放し、現実はひとつだけではないということを教えてくれます。

どうぞボンマルシェの空の下で、なんとも言えない開放感を!




松井孝予

(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。

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