《開発秘話》ティムコ「スコーロン」の防虫ウェア 着心地、変色、コストの壁を突破

2020/09/21 06:29 更新


 釣り具やアウトドア用品を製造・販売するティムコの防虫ウェアが売れている。アース製薬と帝人フロンティアが共同開発した防虫素材「スコーロン」を使った商品で、08年に自社ブランド「フォックスファイヤー」から売り出して以来、アウトドア愛好者を中心にじわじわとユーザーを拡大。近年のデング熱、マダニ騒動で一般層にも広がった。発売から11年が経ち、スコーロンを使った製品の売り上げは、初年度の約8倍に成長。最近はキャンプブームも追い風になりつつある。

(杉江潤平)

 防虫機能をうたう素材はこれまでもあったが、スコーロンが優れているのは、その耐久性だ。防虫剤をファブリックの状態で含侵させ、ナノレベルで固着することで、洗濯を20回した後でも、80%以上の防虫効果を維持する。虫は1度布にとまっても、触覚と足の感覚器でスコーロンを感知し、逃げていく。

 虫の多い水辺でのアクティビティー用品を提案するティムコには打ってつけの技術で、スコーロンの発表直後から注目。当時取引のなかった帝人フロンティアに、飛び込みでアプローチした。

硬さや色写りを解決

 ところが製品化の段階でいくつかの問題に直面した。一つは生地の硬さ。薬剤を染み込ませることで、どうしても生地が硬くなってしまい、「布帛のシャツならゴワゴワして、首回りも擦れるような感じで着心地が悪かった」(松尾尚紀アウトドア部企画開発課課長)。

 そこでベースとなる生地の厚みをぎりぎりまで薄くするとともに、あらゆる混率や目付け、番手を変えて試し、着心地と機能が両立するところを探った。防虫機能の検査では、薬剤の固着量を調べる試験だけでなく、アース製薬の研究所で実際の虫を使った忌避テストも実施。その結果、最適解を見いだし、現在はポリエステル100%の織・編物を使う。

 二つ目の問題は、染色系のトラブル。08年の発売後、色落ちや変色といったクレームが相次いだ。主力アイテムのジップアップパーカについては、「かなりの量を回収した」(齋藤恭子アウトドア部企画開発課主任)ほど。様々な原因を探ったが、不明。ただ傾向として、濃色のものほど色移りや変色が起きやすいことが分かり、現在は淡い色を中心にしている。

開発に関わった松尾課長(左)と齋藤主任

効率上げコストも減

 三つ目はコスト。生地の生産や加工を国内でするため、高コストであるうえ、含侵で使う窯の洗浄など手間がかかる工程も多い。カットソーアイテムに使う通常の生地に比べて、スコーロンの単価は6割増しという。

 そこで、できるだけ数をまとめられるよう、製品化にあたっては素材を絞り込み、定番的に使う素材を設定。現在、毎シーズン5素材で約60アイテムを作り、うち3素材は前シーズンと同じものにしている。その結果、主力のカットソーフーディで9800円、長袖シャツで1万2800円、パンツで1万2000円と、市場の平均値を大きく上回ることなく設定できている。

 こうした課題を一つひとつ解決していったことで、安定供給を実現。スコーロンの使用はティムコが独占しているわけではないが、スコーロン特有の「扱いにくさ」が結果的に参入障壁となり、市場で独自性の際立つ商品になっている。

売れ筋は、かさばらないカットソーフーディ。夏だけでなく春先から秋口まで売れる

ファミリー提案へ

 販路は、百貨店などの直営店「フォックスファイヤーストア」のほか、アウトドア専門店やアマゾンなど。客はデビュー直後こそ、コアなアウトドア愛好家ばかりだったが、数年前のデング熱、マダニ騒動で一気に認知度が拡大。19年の売り上げは、発売初年度の8倍に達した。

 スコーロンが支持されているのは防虫機能だけではない。スコーロン加工によってUV(紫外線)カット効果も確認されているため、購買層は女性の方が多い。

 商品改良は続く。写真家やネイチャーガイドなど、同社が契約する複数のフィールドスタッフからのフィードバックは、商品開発のうえで貴重なヒントになっている。例えば、腕や肘回り、尻部分の生地を二重にしているのは、「汗や湿気で生地が肌に張り付くと、防虫効果が薄らぐ」との指摘があったためだ。

 19年からは、待望のキッズ向けも登場。売れるアイテムはまだ限られるが、キャンプブームのなか、「ファミリー提案できるようになった意義は大きい」(松尾氏)という。21年には、スコーロンで初めてジャカード品も出す。「編み組織が変わることで結果的に通気性と伸縮性が高まった」(齋藤氏)と、新商品に自信を持つ。

UVカット機能もあり女性向けがよく売れている

(繊研新聞本紙20年8月26日付)



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