天然繊維か合繊か、ファーかフェイクファーか
サステイナビリティー(持続可能性)はファッションビジネスに欠かせないキーワードとなった。持続可能な事業活動のあり方を模索する動きは、ラグジュアリーブランドグループからファストファッションまで広がり、重みを増している。欧州に対して取り組みが遅れていると言われていた日本のファッション企業も、目を向け始めた。様々な選択肢がある中で、初めの一歩として注目されているのが、素材だ。
◆多義的で矛盾も生む
サステイナビリティーは、地球環境や社会、経済が将来にわたり、持続的に成長し続けるための活動や考え方を指す。企業活動に求められるのは、製品や技術を通じ、社会課題の解決に貢献することで、極めて多義的だ。伊ファッション連盟のカルロ・カパサ会長は、ファッションサイクルにおけるサステイナビリティーの基軸を①素材②工程③トレーサビリティー(履歴管理)④労働安全衛生――の四つに分類した。
多様なアプローチが考えられる中で、多くの企業が素材を出発点に選んでいる。そもそも、資源やエネルギー、労働を結集して生産される素材は、温暖化や廃棄物、水不足といった地球環境のあらゆる課題と密接に関わっている。具体的な数値や達成率をもって、取り組みの成果が分かりやすく、ステークホルダーにもアピールしやすい。現行のビジネスモデルやサプライチェーン、デザインを大きく変える必要がない利点もある。
サステイナブルな素材と、社会課題の解決に貢献する特性を整理した。ただし、立つ視点によって、矛盾が生まれることも注意しなければならない。サステイナビリティーは解釈の幅が広く、様々な要素が複雑に絡み合っているためだ。
例えばリサイクルポリエステルは、回収したペットボトルや古着、工場で発生した繊維くずから再生するため、ポリエステルの原料である石油資源の使用量を減らし、温室効果ガスの低減につながる。一方、ポリエステルを含め合成繊維の多くは、自然に分解されず、洗濯や生地の製造工程で抜け落ちた繊維が海に流出し、海洋環境や生物に被害を及ぼすことが懸念されている。
サステイナビリティー経営の先進企業、伊アルカンターラによると、テキスタイルの製造工程を通じ、合繊由来のマイクロプラスチックが推定年500万トン流出しているという。表中には、そういった相殺関係を示していない。素材開発が進み、一括りできないものもあるためだ。
◆合繊の開発進む
近年、ますます深刻になる地球温暖化は、CO2(二酸化炭素)の排出を減らすことが世界共通の課題で、〝脱石油〟の視点が肝要だ。ただ、繊維製品に使用されている素材は、圧倒的に合繊が多い。日本化学繊維協会によると、17年の世界の主要繊維の生産量は9477万トン。合繊はその7割を占め、そのうち、ポリエステルが6割に上る。この10年、ほぼ横ばいで推移する綿やウールに対し、合繊の生産量は右肩上がりに伸び続けている。
<リサイクル合繊>
特にポリエステルは強くて熱で様々な形に成形でき、汎用で生産効率が良いため、衣料やインテリア、産業資材など広い分野に使われている。他の繊維に置き換えるのではなく、日本では、合繊の物性を維持しながら、持続可能な特性を持たせる開発が進んでいる。
リサイクル合繊やバイオ由来合繊はその好例だ。リサイクル合繊はここ数年、糸の太さや形状のバリエーションが増えた。高機能合繊をリサイクルで作る試みも活発だ。バイオ由来合繊は原料の一部、または全てを植物由来に置き換え、石油資源の使用量が抑えられる。物性は通常と変わらず、同じように扱える。
<再生セルロース繊維>
植物を原料にした化学繊維に、再生セルロース繊維がある。植物から採取した繊維素(セルロース)を化学処理で溶かし、人工的に糸にしたもので、キュプラ、リヨセル、レーヨンが代表的だ。キュプラは、綿花を採取した後の種に残った、本来は廃棄される未利用繊維を原料にし、旭化成が世界で唯一生産し、「ベンベルグ」の名でグローバルに販売している。
<生分解性繊維>
土の中で無害に生分解される素材は自然環境への負荷が低く、廃棄物処理問題の解決にもつながると期待される。日本国内では年間約170万トンの繊維製品が廃棄され、うち約8割が焼却か埋め立てで処理されていると言われている。生分解性繊維は、微生物の働きにより水や二酸化炭素に分解されるもので、植物繊維と動物繊維のほか、合成繊維でも生分解性を持つものがある。
その一つが、PLA(ポリ乳酸)繊維。トウモロコシなどのでんぷんを原料とし、石油由来のポリエステルと同様の紡糸方法で作られるが、耐熱性が低い欠点がある。また、埋め立て条件によっては微粒子が残留するものもある。天然繊維は生分解性が高いが、一般的な綿は綿花栽培に大量の水や農薬を使う点で環境負荷が低いとはいえない。
◆生産者や動物守る
環境に優しい素材として、消費者に最もイメージが定着しているのは、オーガニックコットンだろう。豊島の調査によると、消費者のオーガニックコットンの認知率は77.5%だった。過半が「環境汚染の改善や生産者の健康保全を目的にしている」という項目について「知っている」「何となく知っている」と回答した。農薬や化学肥料を3年以上使用していない農地で有機栽培した綿で、自然環境だけでなく、生産者の健康に配慮することも重視している。
表からは除いたが、フェイクファーもサステイナビリティーに外せない論点だ。動物愛護、動物福祉の観点から、多くのブランドが毛皮の使用中止を相次ぎ宣言した。
一方で、国際毛皮連盟が「ファッションはフェイクファーから撤退する必要がある」と題したリリースを発表し、石油由来のフェイクファーによる環境汚染とリアルファーの生分解性を訴えている。
次回以降は、表中のサステイナブル素材を中心に、地球環境にもたらす影響や社会課題の解決につながる特性を解説し、開発動向を見ていく。