【店長に役立つページ】デジタル時代、販売員の役割って何? SNSは最強のツール

2021/02/23 06:29 更新


 ECがコロナ下でさらに成長し、SNS運用の重要度も増している。対面で販売できにくいなか、オンラインの接客も当たり前になった。販売員の働き方も従来通りでは役割を果たしづらい。働く環境や、消費者の買い方や意識が大きく変わっていることについていけない販売現場の悩みは深い。トウキョウベースの元トップ販売員で、現在は企業や個人のコンサルティングなどを手掛けるグラムス代表の艸谷真由さんに、悩める販売員の質問に答えてもらった。

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Q1.ECで買い物をする人が増えて、この1年、店の営業もままならない。販売員が本当に必要なのか考えるとモチベーションが上がりません。

販売員の仕事は、目の前のお客さんに新たな視点を提供することです。

 お客さんが探していた商品や売れ筋の商品に対してひと言アシストするような仕事はもはや販売員の仕事ではない。ECでも代替できますから。販売員主導の提案をお客と同じ空間でできる店頭でどういう価値を生み出せるかが大事です。出来なければ販売員は不要と言われても仕方ありません。

 どうモチベーションを上げていくか。今さらですが、顧客作りしかない。簡単には売れない時代に、顧客が少ない販売員がしんどくなってモチベーションが上がらないのは当たり前。毎回初めての人に接して、買ってくれたら良いですが、そうでない場合が多いでしょう。こんな毎日が続けば楽しくない。

 トップ販売員は見極めがうまい。声掛けして「あ、違うな」と思ったら、切り替えて別のお客に行ったりする。出来ない販売員はその〝当て感〟を持ち合わせていないから、「無視された」「自分の価値って」と悩んでしまう。だから顧客作りが大事なんです。「ステュディオス」にいた時の同僚も、新規がとにかく嫌という理由で積極的に顧客作りに注力し数字を作っていました。知っているお客と洋服選びをするわけですから、楽しいはずですよね。

 初めて接客したお客が購入してくれて、自分の顧客になってもらうためには2回目の来店が大事です。その際、自分の印象付けができていないと意味がありません。クロージングの少し前にSNSの話をうまく持ち出してつながるようにしましょう。それができれば、次回来店の動線もできます。

Q2.店舗休業を経て、オンライン接客も始まりましたが、お客様の表情も分かりづらく苦手です。コツはありますか。

いきなり1人は難しいので最初は複数の方が良いと思います。

 2人で進めるケースと1人の場合のコツをそれぞれお話します。2人のケースは、組み合わせがまず大事。仲の良いスタッフで進めるのがいい。その上で、聞き手と話し手、場合によっては天の声に役割を分けます。両方話し手になると話が渋滞してしんどいですからね(笑)。店でも販売員それぞれに役割ってあるじゃないですか。その関係性はオンラインでも生かした方が良いです。

 自分が現役の時は他のスタッフを巻き込んだチーム接客をよくしていました。その経験を踏まえて今考えるとオンライン接客の答えはあれだったな、と。オンライン接客こそスタッフの連携が大事。「彼女はトップスがうまい」とかスタッフごとに得手不得手がありますから、何を売るかを考える時に商品もうまく絡めて設計するとすごく良いコンテンツになるはずです。オンライン販売の場合はあとで自分たちの接客を確認できるので、改善につなげやすい。皆が同じようにやるロープレより余程役に立つと思います。

 1人でやるケースはハードルが高いのですが、準備が大事。例えば、就職の面接を想像して下さい。エピソードトークとかって事前に用意しますよね。それと同じです。最初は試行錯誤でいいと思いますが、ステップを踏んで改善していく方法をお伝えします。一つひとつ課題をクリアすることでレベルアップできるはずです。

 ステップ1は、10分間笑顔で話し切る。内容は不問です。とにかく笑顔でやり切る。次のステップでは店頭のように商品の良さを伝える。もちろん笑顔もそのままです。ステップ3では買いたくなるトークも加えます。お客の生活に置き換えて想像させるとか、いわゆるセールストークです。4ステップ目が自分の素、キャラを出していくことです。最初からではなく、これは最後です。

 笑顔→商品内容(笑顔)→セールストーク(笑顔+商品内容)→自分のキャラ(笑顔+商品内容+セールストーク)の順で目標がクリアできたらオンライン接客をマスターできたも同然。ステップを与える方が販売員も分かりやすいと思います。その上で、普段の接客の時のように上長が評価し、例えば「商品説明が弱い」など改善すべきポイントを伝える。どうしても苦手意識が抜けないスタッフには組み合わせを考え複数でやるのも良いでしょう。

ライブでも動画はカンペも使えるから臆せず演じたい。実店舗のように仲の良いスタッフ同士がベター(写真はイメージです)

Q3.SNS発信が苦手です。自分がオンライン上にさらされるのにも抵抗があります。

お客さんが服を買う時、比較検討や発見の場所がSNSに移ったのだから、そこに販売員のあなたがいないことは〝緊急事態〟なのです。

 「あなたはなぜ販売員になりたかったんですか」と問われた時に、「自分は服が好きだから」という答えだけだと、残念ながら今後は通用しないでしょう。「さらされる」とかではなく、お客もそっちに行ったんだからあなたも行かないといけない。SNSをうまく運用するのは、例えば、英語を話せるなどのスキルと同じです。ないとそこまでですが、あると価値は跳ね上がります。

 今までは目の前のお客に接していましたが、SNSは不特定多数への発信。そこで必要なのはあなた自身のセルフブランディングです。厳密に言えば、自分ではなく「服を通して」の自分発信です。自分ではなく、自分のファッション提案をさらす。そうすると、あなたは選ばれる販売員になれるし、ECでは出来ない価値を生み出していることになります。

 「自分はこういう体形だからこういうスタイリングです」とか「結婚して犬がいて」とかを知ってもらい、似ている体形やライフスタイル、テイストの人に共感してもらう。圧倒的なカリスマではなくても、共感で売れる時代。自分自身で新しいことに挑んで、日々変化していくと、新しい未来やキャリアの道は開けていきますので、怖がらずに挑んでほしいですね。

くさたに・まゆ グラムス代表。幼少のころから服好きで、学生時代にはセレクトショップでアルバイト。卒業後はトウキョウベースに入り、わずか3ヶ月で全社売り上げナンバー1の販売員へ。退職後は専業主婦を経てインスタグラムの運用支援を仕事に。20年には書籍も上梓、翻訳版が台湾でも販売中。大阪府出身。

◇発信は未来への投資

 SNSはこれからの販売員の強力なツールであり強みです。その理由をお話しします。

作業と知的労働

 「作業」と「知的労働」は違います。お畳みとか掃除とか在庫のチェックなどの動的待機はもちろん大事なんですけど、現状はどうでしょう。目の前のそんな業務に日々追われてしまい、「今日1日何をやっていたんだろう」と感じる販売員って多くないですか。SNSの運用も新たな仕事として降ってきて、負担を感じる人は少なくないでしょうね。

 SNSの発信も、作業として捉える方が多いのですが、違います。「未来への投資」と考えるべき。発信を通じて自分を知ってもらい、来店を促すことまでできる「知的労働」です。来店客が減って直接接客をする機会が減っているのであれば、今のうちに種まきとしての発信が必要です。掃除と同じ感覚で発信しているうちは無意味だし、何ら価値を生みません。

 販売員の仕事は、来店するお客様がいて初めて接客が成り立ちます。でも、集客は館任せだったり、ブランド側の企画であるポップアップに乗っかったり、与えられた環境の中での「待ち」の商売だった。SNSを活用することで、自らお客様の来店を促したり、出会えるきっかけを作れる。手紙やDMより即時性があり、コストも最小で済みます。

 自分を指名してくれるファンを増やすこともできます。SNSで発信する時、得意のスタイリングなど「自分をどう見せるのか」を考えて投稿する必要があります。頭を使いますし最初は面倒かもしれませんが、そうして投稿を続けていると、会ったことのない方がSNS上でファンになってくれて、それがきっかけで店頭に会いにきてくれるようになる。ただの従業員だった販売員がインスタグラムで知られたことでちょっとした人気者になれるかもしれない。これまでと違う価値があなたに生まれるわけです。

視野が広がる

 新しい知識や出会いが得られるというのも大きい。よく「どこでマーケティングの勉強をしたんですか」って聞かれるんですが、マーケティングの勉強なんてしたことはありません。インスタ運用を続けるなかで、ある数字を伸ばしたいと思い、投稿結果の数値を見ながら、投稿頻度や時間を変えたり、ABテストをやったり、アルゴリズムのことを調べたり改善を繰り返してきただけです。知らずにやっていたら、それがマーケッターの仕事に近いことをやっていた。

 データを追う作業をしていると、今までは近くて遠い存在だったEC担当の仕事の仕組みも分かってきます。SEOなんて知りませんでしたが、これって投稿にハッシュタグを付けるのと近い話だな、とかウェブ知識も多少は身に着きます。自分の知らなかった世界への理解が進み、知識がたまっていくのは楽しい。

 販売員って、店頭の5、6人のスタッフだけの閉鎖された世界で日々過ごしている。競合がやっていることも知らないし、自分たちのやり方だけで勝負している。でも、SNS上では他ブランドの人にフォローしてもらえたりしますし、情報交流もできる。自分が発信することで、これまで考えられなかったことがどんどん起きる。

 SNSを通じてマーケティング要素を身に着けて「ファッション×マーケティング」の看板を持つことが出来れば、一販売員の立場を超え、その価値は爆増する。社内でももっと活躍できるはずですし、社外に出ても引く手あまたの存在になれるはずです。

「フォロワーの多さの評価って、個人のPR力などの話ではなくフォロワーを増やせたスキルに対するもの」と話す艸谷さん。作業ではなく知的に取り組む必要性を訴える

(繊研新聞本紙21年1月25日付)

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