新型コロナウイルス感染症の拡大によって、小売りの接客や販売の方法は変化した。それはアパレル業界だけではない。刻々と状況が変わる中、様々な商品分野の小売店が、客の気持ちに寄り添えるよう工夫を凝らし、日々の仕事を進めている。各分野の店長に、コロナ禍を経て店頭での仕事でどのような点が変わり、どのように対応したか、客への接し方だけでなく、スタッフのモチベーションの維持のため、どんなことをしたかを聞いた。
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体験に基づき、最適な商品を
「スノーピーク」ららぽーと名古屋みなとアクルス店店長 山本萌さん
17年2月入社の山本さんは、20年9月に店長に昇格。約6年間働いた前職のレディスカジュアル業態でも1年間、店長を勤めた経験を持つ。アパレルだけでなく、キャンプギアも扱う同店において、山本さんが心掛けるのは、「実際に商品を使用した体験に基づく現実的かつ独自性のある接客」だ。以前はキャンプイベントなどを通じて客との距離を縮めていたが、昨今はそれが難しいため、SNSの発信を強めるなどして、コミュニケーションを密に取るようにしている。
18年9月にオープンした同店は、ファミリー層を中心に幅広い年齢の客が訪れる。調理器具がよく売れるのも特徴だ。こうした人々を接客する上で意識しているのは、「その商品を購入することによって、お客様自身がどんな体験を得られるのかを説明すること」だ。客の生活・キャンプスタイルを理解した上で最適な商品を薦めるようにしている。そのため、例えば3点セットでの使用を推す商品であっても、その客に全てが必要ないと感じた場合、無理に購入を促すことはせず、他の商品を薦めることなどもある。
1週間に4~8点の新商品が入荷してくるが、その全てを山本さん一人で試すことは難しい。自店のスタッフや本部の社員と協力しながら、体験した感想を共有している。こうした接客・提案の手法が、目的を持って来店する客が増えるコロナ下において、買い上げ率の向上につながり始めている。
顧客との距離を縮めるためには、SNSで商品の入荷・紹介を動画配信するだけでなく、自店のLINEアカウントを登録してもらうなど、ダイレクトにつながる努力をしている。スタッフ一同、来店・購入後の御礼の連絡を徹底するなどして、顧客ロイヤルティーを高めている。
お客様の内面を理解し提案
「サボン」高島屋大阪店ストアマネージャー 真鍋舞子さん
店舗はシックな内装、明るすぎない照明など落ち着いた雰囲気が特徴。「特別感はあるが壁に囲まれた立地で、敷居が高いと感じる人も多い。入店を促すには、回遊客への声掛けと笑顔が重要」と真鍋さん。大切なのは客が店をどう感じるか、販売員には常にお客様目線で考え、行動するように伝えている。
入店客には必ず声をかけ、迎え入れる。目当ての商品があれば探し、見ている商品があれば店内のウォータースタンドで体験してもらう。日常的に使う商品だけに試してもらうことが大事で、使用感を知った方がお客も心を開きやすい。商品の特性や効能も説明するが「お客様に関心を持って来店理由なども質問する」。商品を使うことでどうなりたいか「質問力と相手の気持ちや現状を理解する力が必要。それができればお客様が本当に求めている商品を提案でき、意味のある接客ができる」。
客層は広く、自分へのごほうびもあれば、20代前半にはギフト需要も根強い。「コロナ下の抑制された生活で自分を見つめ直す人が増えた。生活の変化について聞くと自らの変化を話してくれるお客様も増えた」という。体を整えるボディーケアや入浴剤のほか、おうち時間を心地良く過ごすためにとアロマも売れている。SNSで知りスクラブ洗顔を探しに来る学生や20代前半中心に客数は増加中だ。
化粧品の他ブランドや薬局チェーンなど競合する店が多く、新作も次々に出てきて人気が移り変わりやすい分野なので「納得と信頼を得られ、また来たいと思われる接客が大事。販売員が歴史や作り手の思いを知り、ブランドに愛着を感じて接客することで、ファンになってもらえる確率も上がる」ため、ブランド愛を育むことを念頭に置いた販売員教育を心掛けている。
スタッフに任せて成長促す
「コスメキッチン」ルミネ新宿ルミネ1店店長 太田朋美さん
太田さんは18年から店長を務め、2月からはトレーナー店長として複数の店舗をサポートする立場となった。コロナ禍でもスタッフが目標を持って働けるような工夫を心掛けている。
もともと客数が多いが、オーガニックコスメに関心を抱く人が年々増えたため、同店も客層は10~40代と幅広い。SNSやユーチューブを見て来店する客も多く、接客の手法も変化している。以前は悩みなどを聞いた上でその人に合う商品を提案していたが、最近は目的の商品があって来店した客に商品のメリット、デメリットを話した上で使い方を伝える接客が増えているという。
モチベーション維持に向け、スタッフには今できる目標に取り組んでもらい、達成感を得てもらうよう意識している。20年6月から店頭での様々な業務を任せたスタッフを「リーダー」と呼ぶようにした。社員のほかパートや学生アルバイトでも希望した人にはリーダーを任せる。リーダーは朝のミーティングでPDCA(計画・実行・評価・改善)に沿った報告をするほか、仕事の進め方も自分で計画して遂行する。
担当者に任せる取り組みは、コロナ禍を機に始めたが、面談では「自分で計画しながら仕事をしているのが楽しい」との声も挙がる。太田さん自身、計画を立てたり、リスクヘッジも考えつつ仕事を組み立てるのは好きで、以前は店頭での仕事をどう進めるか、自分で考える事が多かった。
今は任せることがスタッフの成長につながっている。客数が多く、慌ただしい日々の中でできなかった情報共有もしやすくなったという。「モチベーションをどんな風に高めるかは、その人の努力次第だが、こんな時期だからこそ、日々の仕事で店のみんなが達成感を感じられるようサポートしたい」と話す。
家具、雑貨もコーディネート
「リビングハウス」横浜店店長 東美幸さん
「〝おうち時間〟が注目されているからこそ、おしゃれなインテリアを提案したい」と東さん。1ブランド1テイストにこだわらず、色々な家具や雑貨をコーディネートし、素敵な空間を演出することに力を入れている。同社のテーマである「空間価値創造」を店頭の提案販売で感じてもらう接客を強みとする。
ライフスタイルに応じたコンサルティング接客が基本で、それはコロナ下でも変えていない。「まずは入店されたお客様にアプローチすることがポイント。こちらからお声掛けすることからチャンスが生まれる。その上でインテリアをどう楽しんでいただくか。楽しさを感じてもらい、お客様の住まいやライフスタイルを把握し、気に入っていただけそうなインテリアを提案する」。東さんは攻めの接客を心掛けており、来客とのコミュニケーションこそチャンスと見る。
大学の建築学科を卒業後、米国、韓国への留学経験を持つ。17年7月に同社に入社。副店長などを経て、コロナ禍の20年春に横浜店の店長に就いた。リビングハウスの強みは海外ブランドを扱っていることだという。「日本のブランドと感性、センスが違って面白い。新しい発見がある」という。自分の感じた面白さや感想は自らの接客で伝えている。
店長なので店全体の成績アップも重要な仕事だ。会社として接客の練習は行っているが、東さんの勤める横浜店でも基本的に毎日、練習を行う。店全体のレベルアップだけではなく、個人のスキルアップも課題だ。一人ひとりが販売の全てをこなし、売り上げを作ることで、店全体の底上げを目指していく。関東の一番店である豊洲店との差を詰めることが目標だ。
《バックルーム》
「入社当時はスタッフ間でのコミュニケーションが苦手で、一匹狼かハリネズミのようだった」とある店長。当初は接客も逃げ腰で反省が多く「先輩や親に相談して自己分析を重ねた」。その後、上司からの助言や慕ってくれる後輩の出現で考え方も変わり、成長できたという。社交的で気配り上手な第一印象だったため、意外だった。
コロナ下で売り上げの浮き沈みも激しく、「スタッフのモチベーション維持が難しい」。落ち込むことも多い時期だけに、普段のコミュニケーションが大切だ。会話から相手が何を考え、どうしたいかが分かる。客へもスタッフへも、語りかけ、理解し、サポートする姿勢が求められる。
(繊研新聞本紙21年2月22日付)