「数字を読む力が現場を救う」MDアドバイザー佐藤さん

2019/05/27 06:27 更新


 「ファッションの感性はいつか衰えるが、頭の中の知識はさびないし、経験を経ることでいくつになっても成長させられる」と話すのは、企業や個人にMDを教えている佐藤正臣さん。MDの知識や技量を向上させることで「販売現場は楽になる」というのが持論だ。

 セレクト店勤務の経験から、マーチャンダイザーの不作為が店頭を困らせるケースを嫌というほど知っている。「数字を読みとる知識を武器に、自分で考えて判断できる力を養ってほしい」と説く。

(永松浩介)

 大学生の時にノーリーズの倉庫でアルバイトを始め、そのまま入社。販売員を経てマーチャンダイザーになり、同社初のメンズブランドも立ち上げた。10年に退職、フリーランスとしていくつかのブランドの運営を手伝った。その後、大手専門店チェーンに入社。そこで数値管理をベースとしたMDの知識を徹底的にたたき込まれた。自分の感覚のみに頼って商売をしていた頃とは違い、「ノイローゼになるくらいの毎日でした」と振り返る。

 14年に自分の会社、エムズ商品計画を設立した。SPA(製造小売業)の仕事を手伝ったり、生産に携わったこともあったため、独立後は物を作る側に回ろうと思っていた。しかし、「自分はゼロイチで何かを生み出す能力はない」と踏みとどまった。予算書や売り上げ・在庫表といった数字を読み取るスキルを手に入れ、改めてアパレル企業の実態をみたら、「きちんと数字をみて商売していないところが多い」と気付き、MDのアドバイスをなりわいにすることを決めた。

早くスキルを

 業界経験は豊富だ。「自分はエリートではないけど、いろんな現場を踏んできたから、分かりやすく伝えることができるはず」との気持ちも後押しした。「マーチャンダイザーにとっての数字が分かるようになったのは38歳の時。スキルは早く身につけたほうがいい」と三軒茶屋で私塾を始めた。「若い人は学ぶ時間もお金もない」と平日の夜や日曜日に90分5000円で行っている。

 講義先の業種は多様だ。アパレルのほか、ECや通販会社、靴の卸など。いろいろな業種を相手にできるのは、「数字の普遍的な知識があるから」。とはいえ、「マーチャンダイザーは数字が読めるだけではだめ」とも言う。

個人対象のセミナーでの佐藤さん。自身も38歳まではただのファッション好きだったという

大事なのは商品

 「マーチャンダイザーにとって商品と数字の知識、どっちが大事かと言えば、やっぱり商品。自分も商品が好き。お客様を喜ばせることができるのは、商品であって数字じゃないでしょう?」。お客を喜ばせ続ける環境を担保するためにも、その裏側にある数字を読む力が必要となる。持ち越し在庫が多過ぎると新作が入る余地が狭まり、客を喜ばせられない。

 起業した頃はすぐに仕事が決まらず、「アルバイトで食いつないでいた」。ホールの椅子並べや荷物の仕分けなど、急に仕事が決まる時に備えて単発の仕事に限った。クライアントはいたものの、16年末に資金がつき、会社をたたんで実家の大分に帰ることも考えたという。

 結局、実兄を頼って2カ月分の生活費だけを借りて踏ん張っていたところ、中国・上海での講義などの仕事が入った。今ではSNSのフォロワーも増え、「なんとかやれています」と笑う。

 「僕が教えるのは普遍的な知識。個人に対して行っているセミナーでも、絶対解は教えられない」。例えば、セールをしない会社とSPAでは商売の仕方が違う。「だから、ベースの知識を持って自分の頭で考えて、会社での業務に生かして欲しい」という。多くのマーチャンダイザーが数字の知識を標準装備して佐藤さんの仕事がなくなれば、「それはそれで本望」と話す。

「理想は僕の仕事がなくなること」と佐藤さん。自身も38歳まではただのファッション好きだったという


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