20~30代が運営するセレクトショップが元気だ。新型コロナウイルス下も着実に売上高を伸ばし、年商が1億円を超える店が目立つ。熱量や説得力のある接客を強みとするほか、SNSをうまく活用するため、決して人の往来が多い立地でなくとも、ECを含めてしっかりと売り上げを確保している。今回と2月17日と2回に分けて、好調店の秘訣(ひけつ)を探る。
「アマノジャク」 2億円超見込む 意外性のある提案で
「アマノジャク」は、廣川輝一さん(87年生まれ)、小山逸生さん(89年)、大津寿成さん(91年)の3人が18年8月に東京・北千住で開業したメンズ主体のセレクトショップだ。20年9月には同・千駄木にも出店し、現在は実店舗二つとECを運営している。
22年2月期の売上高は、前期比50%増の2億円超を見込む。EC比率は25~30%。ハイエンドなインポートとドメスティックブランドをテイストやジャンルにとらわれることなく揃えており、それらをミックスしたスタイリング提案や、ブランドの代弁者になることを念頭に置いた熱量のこもった接客が支持されている。
前期は、顧客の来店・購入頻度が上昇したほか、客単価が大きく伸びた。中心客層は25~34歳の男性。千駄木店をオープンしてからは、レディスも本格的に販売し始めたため、35歳前後~40代の女性も訪れる。年間の平均客単価は8万円。「カルマンソロジー」「ソング・フォー・ザ・ミュート」などが特によく売れた。
頻度上昇は、新商品が入荷したタイミングに、顧客に対してインスタグラムやLINEでの告知を強化したことによるもの。客単価の増加は、19~20年秋冬物から少しずつ高単価なブランド・挑戦的な商品を増やしてきたことが実った。
「マルニ」「メゾン・マルジェラ」などに加え、従来シンプルな商品はコストパフォーマンスに優れるドメスティックブランドを中心に扱うようにしていたが、最近は「ルメール」などインポートブランドも販売するようになった。
「当店のお客様は、チャレンジ精神が旺盛で新しいブランドや服を試してみたいという気持ちが強い」(小山さん)という。ジャンル・テイストをクロスオーバーしたスタイリングの提案は同店の強み。例えば、「エイトン」と「リック・オウエンス」を合わせたスタイリングなど、意外性のある提案が服好きで新しいファッションに前向きな顧客層に刺さっている。
現在、創業メンバーの3人以外に、社員が2人、アルバイトが1人いる。4月には社員1人が加わる。店頭で接客するスタッフは、展示会でデザイナーから聞いた商品の特徴や思いなどをインプットし、情報もしっかりと客に届ける。賢い消費者が増えるなか、濃度の濃い接客は、同店が支持される理由の一つだ。
23年2月期は、売上高2億5000万円を目標とする。主要都市での期間限定店を重ねながら、店の認知度やブランディングの向上につなげる。2月5日~20日には、渋谷パルコ1階に2度目の期間限定店を出店する予定だ。ECは消費者の利便性を高め、さらに伸ばす考えだ。東東京地域に3店舗目を出店する計画もある。
見据えるのは、「セレクトショップとしてのチェーン展開の在り方を変える」ことだ。将来的に全国の主要都市に出店したとしても、店に立つ人や販売する物、空間演出はローカライズし、「アマノジャクの価値観とクオリティーを維持・提供し続けたい」という。
「ハウデー」 毎年50%増続く ユーチューブで発信
「ハウデー」は、松本涼さん(93年生まれ)がディレクターを務める長野県上田市のメンズ・ユニセックスセレクトショップだ。99年設立のストライプ(長野市)が02年にオープンした店で、松本さんは18年春夏物から商品の買い付けなど、店のディレクションを任されるようになった。21年12月期の売上高は前期比50%増の1億5000万円だった。EC比率は9割。世に先行して活用したユーチューブでの情報発信、自身の好みを優先した仕入れ、こびない接客が若年男性を中心に好まれている。
松本さんは、東京の大学を卒業した後、一度は大手SPA(製造小売業)に入社。1年弱で退職し、地元の上田市に戻ってハウデー(当時は長野市南千歳)で働くこととなった。入社当時に2000万円弱だった年商は、毎年50%増で伸び、現在に至る。20年5月には「地元の上田市を盛り上げたい。街を多くの人に知ってもらいたい」と現在の場所に移転した。
上田駅から約500メートルの3階建てビルをリノベーションし、1階を事務所兼イベントスペース、2、3階を店舗として営業している。周辺に服屋があまりないこともあり、ECが売り上げの主体となっている。中心客層は20代前半の男性。女性客も1割程度いる。前期は高単価なアウターの構成比を下げたため、客単価は3万円台後半と若干下がったが、SNSを起点に新規客を獲得したほか、顧客の購買頻度が上昇し、客数が伸びた。
売り上げをけん引したのは、「カラー」「ダイリク」「TTT_MSW」(ティー)など。こうしたブランド・商品は、「自分の好きという気持ちを重視して仕入れている」。その結果、店頭での接客やオンラインでの情報発信に説得力が生まれている。
ファッションユーチューバーのリョウマツモトとして注目を集めて増収を続けてきたが、「売上高が1億円を超えて規模も大きくなった。今後は自分のネームバリューだけで成長を続けるのは難しい」と考えている。これからは店自体の認知度やブランディングの向上に力を入れる。
22年12月期は、売上高2億3000万円を計画する。弟のリュウマツモトさんに加え、22年春には女性社員が入社し、3人体制となる。女性社員が加わることを機にレディスの販売を開始する。「ジョン・ローレンス・サリバン」「リトルビッグ」「コトハヨコザワ」などを扱う予定だ。
定期的に開いている東京など主要都市での期間限定店も引き続き積極的に取り組む。22年は名古屋や札幌など過去に開催したことのない地域でも実施したいと考えている。
(繊研新聞本紙22年2月3日付)