「どんな服でも、生地を織り、縫う人がいる。そういった背景も伝えたいんです」。原田陽子さんは、裁縫箱を背負い、全国を旅しながら屋台を出して洋服を仕立てる「流しの洋裁人」だ。繊維産地を回り、ファッションの原点を見つめる。
◆現場が見えない
前職は、量販店向けアパレルメーカーの企画・営業職。「海外工場にサンプルを送れば3週間で商品があがる。でも上代はすごく安い。現場の人たちが、いくらでどのように作っているのか、見えてこなかった」。退職後、学校に戻り服飾学やパターンを学ぶ傍ら、繊維産地を回った。そこで高齢化や廃業など、産地の課題を知る。「デザイナーと工場が離れた生産システムや、大量生産の低価格ファッションに慣れた市場の意識が、産地の疲弊に表れていました。一方で、技術を生かした新素材の開発や産地間協業など、可能性も感じたんです」。
ファッションへの関わり方を模索する中、旅先のガーナで見た光景が心に響いた。ガーナの路上には、食べ物や車の修理、理容の屋台と並んで仕立て屋があり、職人が即興で服を仕立てていた。「生地を切り縫う、その所作がとても美しかった」。人の手を介して、生地から服ができる過程を伝えられる仕立て屋になることを決めた。