言葉から始める地域再考 「クール」ではなく「カッコいい」《プラグマガジン編集長のローカルトライブ!》

2025/05/16 13:00 更新NEW!


『プラグマガジン』最新号の表紙

 『プラグマガジン』最新号では、「岡山の新しいキャッチフレーズ」を巻頭特集にしました。「晴れの国おかやま」というフレーズの意味合いが汎用的で、正直言って「微妙だな」と思ったのが企画の出発点です。特集では、岡山県知事や企業経営者、学芸員、ダンサーら13人に、それぞれの視点から新しい岡山のキャッチフレーズを提案してもらいました。その土地を表す「キャッチフレーズ」を十分に練ることは、この街の未来を形づくる創作行為に等しいクリエイション。それは、文字そのものが象徴する力も併せ持った強い推進力になるような気もします。今回は、本企画を進めながら思い至った「カッコいい」の重要さについて私見を書きます。

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説得の3要素

 取材のなかで印象的だったのは、岡山県が海外向けに使っている「The Land of Sunshine」という表現でした。晴天を表す概念を超え、晴れやかな日常や心弾む旅の期待を抱かせるこのフレーズは、海外の人々に対して強い魅力を放っているように思えます。

 また、岡山で暮らす私たちにとっても、その場を一瞬で明るく照らし、肯定的な気分を誘う力があるように感じました。これは、「晴れの国」では語りきれなかったものが、別の言葉に内包されて立ち上がってくる好例だと思います。プラグマガジンが創刊から掲げている編集方針、「岡山をもっとカッコいい場所にする」には、海外向けのフレーズの方が望ましいかも知れません。

 当誌では、ファッションカルチャー誌を名乗る媒体として、装いを軸にした企画や特集を折々に取り上げてきました。しかし、私たちのいうカッコいいとは、ただ単に見た目がおしゃれなことやビジュアルが美しいといった意味ではありません。古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、人を説得する3要素に「エトス」(信頼・人柄)「パトス」(情熱・共感)「ロゴス」(論理・知性)が必要だと説きました。

 私たちがカッコいいと感じる対象にも、この三つの要素が重なり合っているか、そのうちの一つが際立っています。そして、そこに装いや視覚的な魅力が加わったとき、それを迷いなく「カッコいい」と呼びたくなるのです。キャッチフレーズに限らず、これからの時代、カッコいいという物差しは、ビジネスや地域活性化など、全てにおいて重要な価値基準になるような気がします。

価値観の刷新

 日本語のカッコいいが含む感覚をぴたりと置き換えられる言葉は、英語に限らず他の多くの言語にも見当たりません。見た目の良さだけでなく、所作や人柄、考え方や雰囲気までも含んで捉えるこの言葉には、日本語ならではの感性が染み込んでいます。

 かつて「KAWAII」(カワイイ)が、ストリートファッションやアニメなどのカルチャーを通じて海外に広まり、翻訳されずそのまま受け入れられたように、「KAKKOII」(カッコいい)もまた、うまく伝われば世界に届く可能性を秘めています。

 「街(国)は人であり、装いは人をつくる」が私の信念ですが、繊研新聞の読者の多くが携わっているであろうファッション産業は、日本のカッコいいの担い手です。売り上げ増や事業拡張といった成功事例ばかりがもてはやされる傾向のある今、改めて「それはカッコいいか?」という基準を取り戻すことが、日本社会の閉塞(へいそく)感からの脱出に必要なエレメントになるのではないでしょうか。

山本佑輔(やまもと・ゆうすけ) 04年に創刊した岡山県発のファッション・カルチャー誌『プラグマガジン』編集長。プラグナイトやオカヤマアワードといった地方発のイベントや企画もディレクションしている。24年度グッドデザイン賞で雑誌として史上初めての金賞(経済産業大臣賞)を受賞。通り名はYAMAMON(やまもん)。https://lit.link/yamamon


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