「福井発のラグジュアリーブランドを作りたい」。そう話すのは、数々のブランドのマーケティングやマネジメントに携わってきた有田貴美江さん。そのキャリアを生かし、23年に有田貴美江事務所(東京)を設けて独立、郷里である福井県の新経済ビジョン策定委員会や推進会議の委員としても忙しい日々を送る。
(若狭純子)
福井発世界へ
福井県からの依頼は思いがけないものだったという。「いつか、何か貢献できないか」と思ってはいたものの、18歳で地元を離れて進学してから、ほとんど接点がなかったためだ。しかし、ラグジュアリーブランドやグローバルSPA(製造小売業)、アマゾンなどで培った経験を新たな領域に生かせるかもしれない。特に、企業の成長戦略と一体となったブランド戦略や人材育成への挑戦のサポートは得意分野。「とてもラッキーなこと」と受け止め、委員を引き受けた。以来、様々な調査分析をはじめ、ブランディングや商品開発の伴走支援、経営者向けのセミナーなど幅広く関わっている。
「福井は物作りの県。ただ、これまではBtoB(企業間取引)が中心で、自分たちでブランドを作るという発想があまりなかった」。しかし、伝統産業の中には自社ブランドを立ち上げて成功している企業も出てきた。例えば、「自社一貫生産でブランド価値を高めている眼鏡のメーカー」がある。「自社ブランドが価値を高め、価格をコントロールできるようになるには、物作りと一体となったBtoC(企業対消費者取引)が必要。福井発のラグジュアリーブランドを作りたい思いがあるが、眼鏡はまさに〝ローカル発のグローバルブランド〟と呼べるようになり、高級ラインは28万円で販売されているものもある」とほほ笑む。
安売りしない
グローバルに見ると、「ブランディング戦略は事業会社内でやるべきこと」とした上で、「日本、特に福井ではブランドマネジメントの部分がまだ弱い」と映る。経営と一体となったブランディングをもっと浸透させるべく、「経営者との壁打ち」を繰り返す。「良い物を作るのは前提。そこにどう価値を作るかが重要で、この価値作りこそがブランドマーケティング。福井は物作りの県として、この価値作りに挑戦するのに非常に重要な場所」と感じている。
その価値作りには、消費者との向き合い方がカギになる。しかし、「日本のDtoC(消費者直販)は、本来の意味とは少し違った形で輸入され、広告で刈り取るようなビジネスモデルになり、数年前から衰退傾向」にある。本来のDtoCは、「お客様と直接つながることで、お客様の声を商品開発に生かすべきもの。直接触れ合える小売店が顧客調査をしたことがないなど、財産であるデータに気づいていない企業が多い」。この課題を解消するためにも、「顧客起点に立ち返りたい。アングルを変えて、気づきを促すことで、価値を最大化していけたら」と話す。
生家は祖父がテーラーと営んでいたこともあり、もともと服は大好きだ。織機の動く音が響く環境で育ち、繊維産業は身近な存在だった。今は、伝統に縛られ苦しい面がある一方で、「自分たちの強みをしっかりと生かし、価値を安売りしない実践がされている企業」にも多く出会う。「面白いご縁から、町おこしの〝協力隊〟として、シルク復興に向けて動いている。羽二重の技術が衰退してしまうのはもったいない」と、新たなプロジェクトも進行中だ。