新型コロナウイルス対策で昨年4月に1回目の緊急事態宣言が発令されて以来、感染拡大防止のために外出を控える生活が続き、専門店経営にも変化を強いられる場面が増えた。対面機会が減ることの弊害は、販売客数減だけではなく、商品仕入れにも影響している。昨年急速に広がったアパレルのオンライン展示会を専門店経営者はどのように見ているのか。苦境の中でも売り上げを伸ばすにはオンライン展をより良いものにしていく必要がある。
多くの不満あるオンライン展
コロナ禍により、アパレルメーカーでは20年3月展の中止が相次いだ。同5月展からオンライン展示会システムの導入が増え始め、同9月展以降はリアルとオンラインを併用する例が増えた。
オンライン展の多くは、商品説明サイトに発注機能を持たせたもので、動画での説明を付加したものや展示会場をVR(仮想現実)化したもの、ビデオ会議システムやビデオチャット機能を利用して取引交渉ができるものもある。オンライン展は対面や人流を避ける環境で必要なだけでなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、アパレルメーカーが都市圏に集中する現状では、地方専門店には遠距離移動が避けられる点でも利便性は高い。
しかしコロナ禍が全国拡大した1年間(20年3月~21年2月)を対象とした婦人服専門店経営者へのアンケートで、アパレル展のあり方への問いには併用でもリアル展を主体にしてほしいと望む声が全体の6割に達し、オンライン展は不要という声も約1割あった。反対にオンライン展示会を望む声は6%と極めて少なく、婦人服経営者にとってオンライン展は満足や納得できないものが多いのがうかがえる。
オンライン展の不満の多くは商品を手に取って確かめられないことにある。デジタル画像で商品の着心地や触感がわからないのは当然で、色やサイズの実感がつかみにくいのも否めない。その現実からオンライン展を利用しない経営者は少なくない。
クレアトールオキ(大阪市)の沖啓太郎社長は「商品画像では服の価格差がわかりにくく、単価の高いもののオンライン発注はリスクがある」と言う。仕入れ先が近距離に多いこともあり、ほとんどのメーカーがリアル展を再開して以降、オンライン展を利用せずにすんでいる。同じく大阪市のサンアイの山岸繁夫社長も同様の理由でオンライン展を利用しない。
デ・ルッソ(大阪府枚方市)を運営するリヨン洋装店の富江則之社長は「BtoC(企業対消費者取引)のネット販売でサイズや色で失敗して諦める人が多い。自分たちは失敗や諦めをしたくないから、ネットで仕入れない」と否定的だ。うめや(兵庫県姫路市)の梅田繁店長も「数社のオンライン展を利用したが素材・サイズ感が捉えにくい。BtoCのネット通販なら返品できるが、展示会発注はそうはいかないので、商品を直接見られないものは原則仕入れない」と言う。
ブティックハラ(岐阜県大垣市)は21~22年秋冬物のオンライン発注を増やした。広瀬香織社長は「長い取引のあるメーカーだとデザイナーの特徴や素材や糸使いも分かるので、パソコンの画面でも洋服の特徴が推測できる。取引が浅いと画像だけではイメージがつかみにくく、もどかしさも生じる。画像では限界があり、展示会でリアルな商品を見て、感じないとシーズンの雰囲気がつかめない」ことを認める。
低いオンライン発注の的中率
仕入れ商品の画像と実物のイメージとの「ずれ」のためか、多くの婦人服経営者がオンライン発注商品はリアル展に比べ売れ行きが鈍くなるという。
三重県伊勢市にファーレ本店を運営し、大阪府と三重県の百貨店にも出店しているツジは21年春夏物のオンライン発注が約70%を占めた。21~22年秋冬物は約50%と比率を下げ、22年春物は約30%とさらに下げる予定だ。
清水幹弘社長は「オンラインでの受注は素材感を見誤ることがあり、結果としてリアル展示会での発注の方が的中率は高くなる」と分析している。だが、全く否定するのではなく「商品ごとの動画が添付されているものは利用しやすく、把握が難しい素材のスワッチが借りられると助かる」という。
カワシマ(島根県出雲市)のヤングミセス向けのサブズカワシマは仕入れ全体の30%がオンライン展からの発注だが、やはり的中率は低いと感じている。ミセス向けの本店は仕入れ先メーカーにオンライン展を勧めてくるところはなく、商品絵型や写真、資料が送られることがほとんどだという。
川島徹久社長はミセス向けメーカーはヤング向けに比べデジタル技術導入の意欲や関心が薄いと感じている。
良いオンライン展示会とは
カワシマの川島社長は、ひと続きの長い動画や商品写真がバラバラで一つのフォルダに収容されているオンライン展示会には困っている。仕入れたい商品が見つかりやすいように「納期別やアイテム別にしっかり分けてほしい」と言う。マッシュスタイルラボやアイアは、そうしたバイヤーの声に応えてシステムの改善が進み、使いやすくなったと評価している。
ツジの清水社長は「海外ブランドは資料も充実していて、全商品のスワッチを送ってくれるなどクオリティーが高いオンライン展が多い」という。
素材感が分かりづらく、オンライン展には期待していないというビーザ・ワン(鹿児島市)でも使いやすいオンライン展に「ヤヌーク」を挙げる。オンライン発注が全体の半数を占めるイリヤ(広島県福山市)は「マルニ」「マルジェラ」「ディースクエアード」「モンクレール」などを挙げる。佐藤尊志社長は「海外ブランドのオンライン展は、商品をどの角度からでも見ることができるなど、商品を見せるためのシステムが高いものが多く、シーズンのたびに作り込まれている。ユーザーが満足できるオンライン展への投資や技術開発への熱意は国内アパレルメーカーには見られない」と指摘する。
オンライン展での発注が70%のクルール(福岡県朝倉市)は、コメントができるインスタグラムの動画活用を増やして欲しいと願う。場所を問わずに気軽に見られ、顧客とのコミュニケーションにも利用しやすいと考えるからだ。
国内アパレルメーカーは、自分たちの売りやすさより、バイヤーの使い勝手をもっと重視すべきで、オンライン展の技術進化にもっと敏感であるべきだ。国内オンライン展には課題ともに、多くの伸び代が残されているともいえる。
(繊研新聞本紙21年9月2日付)