《ニュースサクサク》大手小売りで進む「店舗×テクノロジー」 相互補完によるサービス向上が必須
ECであらゆる物がすぐに手に届く時代となった今、ECと実店舗が相互補完して顧客の要望に応えるサービス向上が必須となっている。ECが強みとする「検索・閲覧」「時間や場所を超えた利便性」の一方で、実店舗は「試着可能」「新たな発見」「触れ合い」「共感」「ブランド世界の体験」という本来の強みを磨きつつ、足りなかった「利便性」「スムーズな接客」「スマート決済」など先端性の付加が重要になる。ECと実店舗の買い物体験をどうやって融合させようとしているのか、ジーユーとザラの事例から探る。
(柏木均之、疋田優)
【ジーユー】デジタル技術で面倒解消、データも収集
ジーユーが18年11月末、原宿に開設したショールーム型店舗「スタイルスタジオ」は、洋服購買の面倒さ、障壁を解消するとともに、客が「何を望んでいるか」をデータ化し、求められる商品開発とサービスにつなげようという動きの一例だ。
スタイルスタジオでは、「ユーザーインターフェイス/ユーザーエクスペリエンスの向上」を視野に入れたサービスを提供している。その一つが、客の動向を把握するための新機能で、アバターを使った仮想試着体験。客の顔に似せたアバターが服を試着するので、着用イメージを確認でき、同時に実際に脱ぎ着する面倒を解消している。
もう一つは実際に試着した時にもICタグから商品情報を客に伝える機能だ。試着室に服を持ち込むと、商品に付いたICタグを自動で読み取り、室内壁面のタブレットに商品情報が表示される。「ただ商品情報が表示される」だけでは客の利便性にはつながりにくいが、商品情報をQRコード化し、スマートフォンのアプリケーションで読み取り、帰り道や帰宅後にオンラインストアでの購入を検討できる。
これらのサービスで販売員が感覚的に得ていた情報がデータとして正確に入手できるようになる。どの服が何回、他のどのアイテムと一緒に試着室に持ち込まれたのか、気に入られた商品は何で、どの商品が実際に購入されたのかなどの情報を、販売員が接客で得るリアル情報と組み合わせることで、より高精度な商品企画・開発ができるようになる。
【ザラ】EC特化の実験店で行列しない仕組みも
ザラは18年5月から4カ月間、六本木に自社ECの注文と商品受け取りに特化した期間限定店を開いた。六本木ヒルズ店が同年8月に移転オープンするまでの試みで、六本木の期間限定店には400点の商品を置いた。ECで売ることが前提で、省スペースでコレクション全体を見せられ、客もデザインと色だけで商品を直感的に選べるように工夫した。
来店客がスマホ上のアプリケーションで好みの商品のタグのバーコードを読み込むと、自分のサイズが試着室に用意される仕組みで、スマホには待ち時間が表示され、客は自分の順番が回ってくるまで店外で過ごせる。ジャパン社によれば、ザラの通常の店舗では、週末の混み合う時間帯に試着待ちの長い行列ができることがあるが、待ち時間表示サービスを行うことでこれを解消できるメリットもあったという。試した上で購入した商品は、当日か翌日に受け取れるようにした。
日本で行ったのと同様の取り組みはロンドン、ミラノの実験店でも行ってきた。これらを経てザラは18年11月から自社ECの新プラットフォームをスタートし、新たに106カ国でネット販売を開始した。
インディテックスのパブロ・イスラ会長兼CEO(最高経営責任者)は新プラットフォーム導入で「20年までにインディテックスが運営する全てのブランドが世界中どこからでもECで買えるようになる」ともくろむ。同社の場合、一連の取り組みは、顧客データの取り込み、活用より、ECと実店舗の買い物体験をつなぐことで、顧客にとっての買い物体験の利便性を向上させることが狙いのようだ。
(繊研新聞本紙1月7日付)