【パタゴニア幹部の講演】 企業が果たすべき役割とは

2017/11/05 12:00 更新


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 米パタゴニア幹部を招いた講演会が9月15日、文化服装学院で開かれた。同社が11年から取り組み、今秋日本でも本格展開する修理・リサイクルプログラム「ウォーン・ウェア」の意義や、地球環境への悪影響を減らし、持続可能な社会を目指す上で企業や業界が果たすべき役割などについて語った。

(ファシリテーターは林民子さんが務めた)

【講演】 消費に大きなイノベーションを

リック・リッジウェイさん
パタゴニアパブリック・エンゲージメント副社長。創業時からのメンバーで、パタゴニアの価値観を世界中に広める広報担当者の一人。社内の環境及び持続可能性イニシアティブの開発者。環境・社会問題に取り組む、アパレル・フットウェアの業界団体サステイナブル・アパレル連合(SAC)の設立では主導的役割を果たした。

 会社が設立された45年前からパタゴニアに関わってきた。当時から創業者のイヴォン・シュイナードとは友人であり、クライミングのパートナーだった。

 90年代初めに今のミッションステートメントがまとまった。3部構成で、一つ目が「最高の品質で最長の耐久性を持つ製品を作ること」、二つ目が「最高の製品は作るが、環境や人に不必要な悪影響は最小限に抑えること」、三つ目が「ビジネスを手段に環境危機に警鐘を鳴らし、インスピレーションを与え、環境問題の解決に向け実行すること」とした。それぞれ詳しく説明したい。

三つのミッション

商品の修理風景

 一つ目の「最高品質の製品を作る」というのは、環境へのインパクトを軽減するコミットメントにとって重要だ。環境インパクトは商品寿命の初期に集中する。商品が長く使われると、インパクトは低くなるから、耐久性の高い商品作りは重要な要素になる。

 二つ目のコミットメントを実現するには、サプライチェーンをきちんと管理しなければならない。我々は、自らのインパクトをしっかり把握するような業者をパートナーとして選んでいる。同様にフェアトレードにコミットしている工場に生産を委託している。工場労働者が生計を立てられる賃金を担保し、公正な扱いを受けていることも確認する。

 最高の製品を作る上で不必要な悪影響を及ぼさないのは、人間はもちろん、動物に対しても同じだ。例えばダウンの調達段階では、現場に入ってガチョウが無理やり餌を与えられていないか、生きているうちに無理やり羽根をむしり取られていないかを確認している。

 「最高の製品を作り、不必要な悪影響を最小限に抑える」ことができれば、ビジネスとしても成功する。なぜなら、「責任ある生き方をしたい」という人に好まれる製品を作ることができるからだ。これは非常に強いビジネスモデルだ。

 三つ目のミッションは、前述した一つ目、二つ目の成功に基づいている。これを達成するための重要なプログラムに「1%フォー・ザ・プラネット」がある。売上高の1%を非営利の環境団体に寄付するというものだ。利益の1%ではない。

 昨年は世界820以上の環境団体に1000万ドル以上の助成金を提供した(実際は売上高の1%を超えた)。もちろんそこには日本の団体も多く含まれている。

 他企業に影響を与えることで、環境問題の解決を目指すという方法も用いている。サステイナブル・アパレル連合(SAC)の活動もその一つ。SACを結成し、これに加盟する他のアパレル、フットウェア企業にも、環境へのコミットメントに協力してもらうよう働きかけている。実際、設立わずか7年で、230以上の企業、NGO、大学がメンバーとなり、全世界のアパレル、フットウェア生産量の50%を占める、世界最大のアパレル業界団体となった。

消費を減らしたい

 三つ目のミッションでは、カスタマーにインスピレーションを与え、実行する方法も採用している。当講演企画のタイトルにある「ウォーン・ウェア」も、お客様をパートナーとして取り組むプログラムだ。パタゴニア製品が壊れてしまい、お客様がそれを修理する場合に、パタゴニアがそれを手伝うものだ。ウォーン・ウェアを通じ、モノを減らしたいと思っている。

商品の修理風景

 今、世界的にサステイナブルなイノベーションが起きつつある。しかし、現在実行中及び計画されているサステイナブルな活動を合わせても、年間の成長率に対抗するにはまだ不十分だ。地球の健康に関する指標の値をひっくり返すには、「消費を減らす」ことに尽きる。

 我々はウォーン・ウェアキャンペーンを11年のブラックフライデーに始めた。「ニューヨークタイムス」に全面広告を出し、当時一番の売れ筋だったジャケットの写真とともに、「このジャケットを買わないで」と訴えた。さらに写真の下には、「このジャケットを作るには160ガロンの水を使い、20ポンドもの温室効果ガスを排出し、重量の3分の2に相当するものが廃棄物となった」と記した。

経済界の要人も注目した「このジャケットを買わないで」広告

 反響は大きかった。広告掲載の1カ月後、あるイベントで出会った世界銀行総裁から、「『このジャケットを買わないで』の人ですね?」と言われたほど。総裁は、あの広告をきっかけにパタゴニアに関心を持ち、私のエッセイのコピーを各支店の副総裁に送ったことまで明かしてくれた。

【対談】 責任を果たすことがビジネスの強みに

林民子さん
 ラグジュアリーブランドのPRを経て、07年に環境や社会に配慮したエシカルな暮らしを提案するNPO「ソーシャルコンシェルジュ」を設立。08年からは、ヤクの毛を用いたニットブランド「ショーケイ」ジャパンオフィスの共同代表も務め、中国の辺境地に住む少数民族、チベットの人々をビジネスの力で支援する。16年からコペンハーゲンファッションサミットにも参加している。

  ここ数年、日本では服が売れなくなっている。修理がさらに広がると、アパレル産業には大打撃では。

 リック 「このジャケットを~」のキャンペーンをした者としては朗報だ。しかし、あの広告は「何も買わないで」と訴えたのではない。どのような衣類を着るべきかを考えてもらいたかったのだ。

 より多くの若い人たちが責任ある生き方にコミットしてきていると思う。このトレンドがますます広がることを期待している。この考え方が正しければ、パタゴニアのビジネスは成功し続けるだろう。そのビジネスモデルとは、責任ある生き方をしたいカスタマーのために、最も責任ある製品を作ることだ。

 実際、パタゴニアは世界各国のアウトドアアパレル市場の平均値に比べ、より速いペースで成長している。これは競合他社からシェアを奪っていることを示している。人々の心に届くビジネスをしているから、それが可能になっている。

 もし人々が消費量を減らし、少ない数のものを買うのであれば、より品質が高く、耐久性の高いものを買い、そして買ったもので使えなくなったものはリペアセンターに回し、引き続き使って欲しいと考えている。このビジネスモデルが成長につながっている。

ヒグツールで見えるもの 

  改めてSACの概要や意義を。

 リック SACは、主に三つの仕事をしている。一つ目は標準化のためのツールを確立すること。これは環境インパクトや社会正義を測るためのもので、原材料から製品寿命が尽きるまでのバリューチェーンすべてに通じている。様々なツールがあるが、これらをまとめて「ヒグ・インデックス」と呼んでいる。SACは7年間でこのツール作りをほぼ終えた。

 二つ目の仕事は、そのツールで測った数値が正しいかどうかを検証するテクニックを開発すること。現在、この仕事もうまく進んでいる。三つ目は、SACの全メンバーに透明性にコミットしてもらうこと。つまり測定結果を公表してもらう。これは2020年までに成し遂げたいが、前倒しでスケジュールは進んでいる。

 これらが実施されたあかつきには、アパレル・フットウェア業界に大きな変化が起きるはずだ。多くの外部のステークホルダーたちが、「環境への悪影響を軽減させよ」「社会正義を高めよ」などと会社に対してプレッシャーをかけるようになるだろう。

 ヒグ・インデックスの測定結果から投資対象を決めるファンドも現れるだろう。つまり、ヒグ・インデックスで測られた数値が、その会社の株価に直接反映されるようになる。世界中のNGOも、ヒグ・インデックスを使う。数値が低い企業には、NGOはキャンペーンを張るだろう。

 そして現在、最後のヒグツールの開発が進んでいる。完成品のアパレル製品の環境インパクトや社会正義を測るツールだ。これができると、世界中の店舗に並ぶアパレル製品に、ヒグ・インデックスによる格付けを表示することが可能だ。そうなれば、コンシューマーにもその情報が届き、環境や社会正義に対する影響について、皆さんが納得できる商品だけを購入できるようになる。

講演と対談、質疑応答は2時間に及んだ


消費者でなく「所有者」 

  パタゴニアは「消費者」を「所有者」と言い換えている。その理由は。

 リック パタゴニアではコンシューマー(消費者)という言葉を嫌っている。なぜなら消費をするということを示唆しているからだ。そのため、全般的にパタゴニアではお客様のことをカスタマーと言い、コンシューマーとは言わない。カスタマーの皆さんには、パタゴニア製品を長い間付き合える忠実な友人として捉えて欲しいと思っている。

 ウォーン・ウェアキャンペーンを通じ、皆さんには衣類を友人として捉え、ずっと一緒に居てもらえるようになって欲しいと思っている。そういう考え方になると、皆さんの人生の中で物との関係が変わるはずだ。

 その関係性は、物の数が少なければ少ないほど、少ない物の価値を見いだせば見いだすほど、より豊かになると思う。また、節約にもつながる。物質的な生き方は、ハッピーな人生ではない。ウォーン・ウェアキャンペーンで伝えたい中核部分はまさにこれだ。

■会場からの質問

 ――消費を世界的に減らすために、政府に何を期待するか。

 リック 今はコストに含まれていない「外部からの影響分」を、「内部の影響分」としてコストに入れるというやり方を反映した政策だ。その好例が炭素税。つまり、炭素による汚染をコストとしてみなすわけだ。炭素排出量を減らしている企業には、競争優位につながる政策になる。

 このような考え方が全世界的に広まり、水の使用や廃棄物、特定物質放出に関するものなどこれまでコストに入れられていなかったものをコストに採用するようになると、二つの事態が起きるだろう。

 一つは消費材全般の価格が上がる。真のコストが製品コストの中に入り込むからだ。二つ目は、ヒグ・インデックスにより数値化され、環境インパクトが低く、社会正義が高い衣料品なら、コストが低くなるということだ。そういう将来になるかは政府が担っている。


当日会場には約180人が来場した

■インタビュー 時間を超えたデザインが必要

 イベント終了後、リック氏は繊研新聞社の単独取材に応じた。

――あなたの目には、日本のアパレル産業はどう映る。

 服を買う人が減っているとのことだが、廃棄される衣料品の量は増えている。経済産業省などの調査によると、90年は衣料品の供給量(総輸入点数と国内生産点数の合計)が11億9600万点で、うち11億5500万点が消費されたが、15年には27億8000万点の供給に対し、消費は13億6000万点にとどまり、およそ半分がゴミになったという。

 供給に対して消費量は減っているかもしれないが、廃棄量は増えている。パタゴニアにとっては、こちらのほうが重大な問題だ。だからこそ、ウォーン・ウェアのような取り組みが重要となる。

――「責任ある生き方を選ぶ人が増える」と言ったが、そう確信する理由は。

 職務上、学生とよく会うが、パタゴニアのしていることに賛同する人は多い。例えば今春、アメリカではウォーン・ウェアの一環で、ミシンを載せた3台のリペア用トラックが21の大学を訪問し、修理のために計4万人が列をなした。彼らはよりシンプルな生活をしたい、消費を減らしたい人々だ。そしてこれはトレンドだと思う。

 これは何か特定のきっかけで起き始めた事態ではない。自分たちの親が物質主義を追求した結果、ハッピーになっていないのを見て、別の考え方を持つようになったのだろう。

アメリカではミシンを積んだリペア用トラックが走り、ウォーン・ウェアキャンペーンを展開する

――耐久性のある製品を作ることは重要だが、ファッションには流行という要素もある。この兼ね合いをどう考える。

 ファッション産業にチャンスがあるとすれば、クラシックなデザインで相続性の高いものを作ることだろう。35年前に妻と私が結婚をした際、当時妻の勤務先だったカルバン・クラインから頂いた洋服は今、娘が着ている。状態が良くクラシックなデザインなので、おそらく娘の子供も着ることができるだろう。

 80年代当時、その服を買ったら2000ドル以上はしたはずだが、50年着用できるなら、決して高い買い物ではないし、環境へのインパクトも少ない。

 責任ある生き方をしたいという人のために製品を作るのなら、ファッション業界にはまだチャンスはあると思う。しかし、そのチャンスをモノにするためには、絶対に守らなければならないことが二つある。

 一つは耐久性のある製品でなければならないこと。最高品質のファブリックで、かつ作りもしっかりしたものでなければならない。二つ目は、時間を超えたデザインでなければならないということだ。


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