【パリ=小笠原拓郎、青木規子】23年春夏パリ・コレクションは、新しいフォルムの提案が目立つ。クラシックなラインを進化させたり、有機的な形を服に落とし込んだり。シンプルでスタンダードな服を新しく見せることがポイントとなる。フォルムを引き立てるニュアンスカラーが多く使われている。
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ロエベを手掛けるジョナサン・アンダーソンは、服の新しいフォルムを模索し続けている。長い歴史の中で使われてきた服とは違う、新しい美しさを探しているように見える。今シーズンを象徴するのは花のアンスリウム。招待状として届き、会場には巨大なオブジェとなって設置された。そのきっぱりとした色使いとスーパーリアリズムな感じは、未来的にも見える。「まるでデザインされたかのように見まがう自然の産物」の美しさを服で表現するために、デザインをそぎ落とし、色とフォルムを研ぎ澄ました。
ファーストルックはビュスティエドレス。クラシカルなアイテムだが、形はぐっとシンプルになりバスト部分はできるだけフラットに、丸いラインを描くはずのパニエのラインもすっきりと直線的に。伝統的なものが進化した。合わせるパンプスはエロティックなほど艶やかな赤。身頃やバストには本物より本物っぽいアンスリウムが飾られている。ポロ襟のニットドレスは超ミニ丈で、フレアラインは極端にたっぷり。巨大なシャツ型のケープ、花柄のティーカップの陶器を思わせる硬質なミニドレスなど、新しいフォルムやテクスチャーも多い。クリーンでシンプルなアイテムのなかに、研ぎ澄ました美しさが感じられる。新しいものを生み出そうとする姿勢には、いつも目を見張る。
イッセイミヤケは、ブランド創設者をなくした喪失感を乗り越え、新たなスタートを切るシーズン。会場に着くと、わずかな光だけの暗く静かな空間に迎えられた。ショーの冒頭、スクリーンには三宅一生さんの写真が映し出され、ジョン・レノンの「イマジン」が流れる数小節の間、別れの時間が設けられた。ショーは気持ちを切り替え前に進み出すように、凛(りん)としたルックで始まった。抽象的なフォルムを描く白いドレス、有機物のように袖が波打つトップは、自由に形作られた彫刻のような存在感で、会場に備えられた巨大なオブジェと呼応する。ドレスもパンツスーツも軽く空気をはらみ、動きが感じられる。無縫製ニットのベアトップドレスは部分的にとがり、ぷくぷくと膨らみ、動きに合わせて上下する。そのフォルムも自由で楽しい。複数の編み組織を組み合わせることで表情はより豊かに。飛べば弾けるような躍動感が生まれる。ラストは、ベージュ、ブラウン、ブラックなど様々な肌色の弾むドレスが会場を飛び跳ねる。解き放たれて自由に進むポジティブなイメージを伝えた。テーマは「呼吸するかたち」。後継者たちの決意を感じるコレクション。
クレージュといえば、ミニマルでどこか未来的な雰囲気をかもし出すのがブランドイメージであろう。この春夏に関していえば未来的な雰囲気をほとんど感じず、ミニマルでボディーを意識したラインにファンクショナルな要素を取り入れている。基本の素材はジャージー、デニム、ボンディングクロス、PVC(ポリ塩化ビニル)といったもの。ミニドレスやタンクドレスのミニマルなアイテムに、アウターを肩に掛けて持ち運ぶというスタイルを強調した。パンツの股下はカットアウトしたようなディテール、スカートやパンツのヘムにはバックルが揺れる。ボディーコンシャスなアイテムの一方で、アウターはバイカーコートなどのハードなアイテムが目立つ。会場の中心で砂時計のように落ちていた砂山はいつか崩れ去り、アリジゴクの巣のように深い砂のくぼみとなっている。砂を足していくとやがて砂が減っていくというショーの演出は、ミニマルな中にあるデザインの足し算と引き算の象徴のようにも思えた。
(写真=ロエベは大原広和)