【パリ=小笠原拓郎、青木規子】23年春夏パリ・コレクションは、ニューヨーク、ミラノに続いてヘルシーな肌見せやタイトなシルエットで体を強調するY2Kスタイルが全盛だ。レース、シフォン、メッシュといった透ける素材、体にぴったりフィットするニットが多く使われている。
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マメ・クロゴウチの新作は、どこかプリミティブで工芸品のような力強さがある。着目したのは、これまでもたびたび取り入れていたかご編みのテクニック。マメ特有の繊細さに民芸の技術が融合した。ブラトップに重ねたのはウッドビーズを編み込んだキャミソールドレス、細かい編み模様のボディースーツは細い竹ひごを編んで仕立てた民芸品のように見える。緻密(ちみつ)な編みと大胆な透かし編みが交互に並ぶニットトップは、20世紀初頭に活躍した作家、飯塚琅玕斎が得意とした束編みの花かごが着想源になっている。コレクションを作るにあたり、日本人の暮らしに密接に関わり続けた竹かごとその周辺の文化をリサーチして、編みの技術や造形、竹そのものの静謐(せいひつ)に着想したという。研究材料が膨大だとスタイルも重くなってしまいがちだが、ブラやキャミソールなどランジェリーの要素を取り入れたルックは現代女性にフィットする軽やかなイメージ。茶系のチェックや淡いぼかし染めなどオーガニックな色調も全体に調和している。
アンリアレイジは東京で行った20周年記念コレクションに続いて、パリでも久しぶりにランウェーショーを行った。今回は20年目の原点回帰で再び取り組んだシグネチャーのパッチワークシリーズが主役。東京でも見せた新作をどのように見せるかが焦点になった。小さなパーツをつなぎ合わせたパッチワークシリーズのデビュー当初のイメージはハンドクラフトを駆使したカジュアルだったが、新作はバルーンスリーブのドレスやティアードドレスなど立体的なフォルムを描くエレガンスに昇華した。同じテクニックが20年の時を経てぐっと洗練されたことがよく分かる。パッチワークの布は、ストライプのシャツ地やベージュのトーン・オン・トーンといったベーシックなもので、ほとんどがデッドストック。クチュールライクなドレスとデイリーな素材がコントラストを描く。後半はこれらを表裏に。丁寧に縫われたはぎ合わせ部分が表に出ると、ちょっぴり粗野なクラフトタッチになる。色あせたような浅い色はビンテージを思わせる。20年前と今、表と裏の対比とともに、BGMもイヤホンの外と中で流した。
海洋汚染に対する問題提起やサステイナブル(持続可能)な物作りで定評のあるボッターは、春夏もコンセプチュアルなコレクションを見せた。ジャケットをパンツの中にたくし込んで着るスーツスタイルやフロントがハート形にカットアウトされたテーラードジャケットといったアイテムが目立つ。トレンチコートやテーラードジャケットは袖が外せる設定で、外した袖のパーツが背中に揺れる。魚の拡大柄のジャージードレスや魚のうろこのような柄のプリントシャツなど、どこかにマリンの要素を感じさせる。モデルが手に持つのは氷漬けになったバッグ。ダイビングで使うフィンも氷漬けになったまま持ち運ばれる。足元のスニーカーもまるで氷漬けになったかのように透明なソールの中に埋め込まれたデザインだ。これまでも、海に浮かぶブイをアクセサリーにするなど、アクセサリーのアイデアは豊富。服のカットで新たなアイデアが出てくれば、さらに面白い。
コシェの新作は、ぐっとシックになった。黒、白、ブルー、ブラウンを基調にしたワンカラールックは、トレンドのヘルシーな肌見せと透け感で包み込むシェイプシルエット。色柄を抑えて、ハンドクラフトのテクニックを際立たせている。クロップトトップやブラトップとローウエストのフリンジスカートには葉の形のスパンコールがびっしり。編み地を斜めにつないだニットドレスが滑らかに体に沿う。ランダムな切り替えもコシェらしい。いつもと大きく違うのは、ランウェーに設置された大きなデジタルパネル。グーグルの研究部門「グーグルATAP」と提携してコレクションを作ったといい、両社の名前を明記したフーディーを提案した。身頃に埋め込まれた小さなパネルディスプレーが特徴。クラフトマンシップとクチュール技術と、革新的な素材やテクノロジーの融合を目指したという。
(写真=マメ・クロゴウチとコシェは大原広和)