自己実現する消費者の支援を
一般社団法人ウイメンズ・エンパワメント・イン・ファッション(WEF)代表理事で日本FIT会会長の尾原蓉子氏が13日、ニューヨーク日系人会館で講演会「グローバル時代の日本企業と個人の課題」(ニューヨーク日系人会・女性実業家の会主催、日本FIT会ニューヨーク支部協賛)を行い、約100人が参加した。
尾原氏は、昨秋に繊研新聞社から出版した『Fashion Business 創造する未来』の内容に沿う形で講演。「安くなったデジタル技術やクラウドを使って変革するチャンス」「個人が発信力、発言力を持ち、自分で商売する時代」などと話した。
「ものが売れなくなった最大の原因は、ファッションや有名ブランド着用で優越感を感じたい人が減ってきたから」とも指摘。マズローの欲求5段階を引用し、「消費者は見栄や外見を飾るために服を買う『第4段階』までの買い方ではなくなり、自分の価値観やライフスタイルに合う服を選んで買う『第5段階の自己実現』に入っている。業界はこの消費者の進化に付いていっていないから売れない、これまで同様にモノを売ることに固執し『個人が自分の生活や物語を作ることを支援』する形のビジネスをやっていない」と日本のファッション業界に苦言を呈した。
また、「自然と共生する日本の文化、資源、資産を活用しないともったいない」と強調。最後に、グローバルに成功するプロフェッショナルに必要な要素として、
- ①ビジョンをもった行動力のある主体性
- ②理解してもらうことができるコミュニケーション力
- ③本質を見極めることができる現場力
- ④自己責任で双方に利益をもたらすことができる当事者力
- ⑤自己のアイデンティティ
を挙げた。
講演会の後、二十数冊持ちこんだ著書は完売。FIT(ファッション工科大学)の卒業生でニューヨークの「ビッズキッズ」に勤める高杉美輝さんは、「今日ファッションビジネスの戦略が劇的に変動している中で、尾原さんが力強く話していたブランディングの重要性や、大企業ではなく個人のレベルでファッションの価値を生み出せる時代になったことに強くうなずかされた。
私はミレニアル世代のちょうど中心にいますが、現在のファッションにおいてスマートフォンアプリやソーシャルメディアの影響力の大きさを日々肌で感じている。尾原さんの講演会を聞き、日本がうまくこの変化を取り入れることが出来たら、日本のファッションビジネスももっとクリエイティブなアイディアであふれ、楽しくなるのではと思った」と感想を話した。
ミレニアル世代について執筆してきているフリージャーナリストのシェリー・めぐみさんは、「ミレニアル世代は、どちらかというと消費者目線で見ているので、それを逆にファッションビジネスというフレームを通して見ると、なるほどこういうことだったのねとピンとくる部分が結構あった。ビジネスの人にはこういう風に話せば理解してもらえるんだな、みたいなことかも。何より、米国と日本を行き来して得た経験や知識というのは、本当に貴重なものだと改めて感じた」と語った。
(ニューヨーク=杉本佳子通信員、写真も)