「中国の若者の趣味が多様化してきた。日本のブランドにはチャンス」と話すのはノバルカ(東京)が運営するウェブメディア「中国トレンドエクスプレス」の森下智史編集長。サイズやテイストなど、細かくセグメントされた市場で切磋琢磨(せっさたくま)する日本のブランドには商機があるとの見立てだ。
中国からの6月の訪日客数は、19年同月比で76.3%減の20万8500人で、低空飛行が続く。3月の水際対策緩和以降も日本向け団体旅行が解禁されておらず、航空便の回復も限定的で戻りは遅い。しかし、「富裕層などはマルチビザ(短期滞在査証)を取得して来日し始めている」と森下さんは話す。
中国人観光客は、日本の情報を中国版インスタグラム「小紅書」(レッド)で発信する日本在住中国人を通じて情報を得ているという。コロナ禍前と異なるのが、東京や大阪など代表的な観光地を周遊する〝ゴールデンルート〟以外も人気を集めている点だ。名古屋から北陸のルートや鳥取・島根を巡るものが一例で、後者には若者の結婚難を反映してか縁結びの聖地・出雲大社が含まれる。
若者の趣味が多様化してきた例は多い。キャンプがブームで「日本のキャンプ道具が欲しい」という声があったり、ロードバイクや音楽フェスが人気だったり。ファッションも大きく変わり、SNSでも多く投稿されている。例えば、下北沢の古着店事情もよく知っている。
「中国のアパレルは全体に大きいが、日本は小柄なサイズも揃っている。通勤服などシーンごとにもセグメントされているのにも関心が高い」。中国の伝統を取り入れた〝国潮(グオチャオ)〟もブームではあるが、一方で、アメカジや日本のJK(女子高生)風やゴスロリ、コスプレも人気を集める。中国でも類似商品は生産しているが、完成度に差があり、そもそも背景がない。「やはり日本の本物が欲しい」のだという。
経済成長を遂げ、社会も成熟化に向かい、「それぞれの価値観を認め合う余裕が出てきた」と森下さんは見る。皆が着ているものがステータスだったのは過去で、おのおのが趣味を見つけ慈しむ多様性を許容する。もっとも国が大きく人口も多いため、一くくりでは語れない。とりわけ、国が急成長したこともあり、世代間の格差が大きく注意が必要だという。
(永松浩介)