コロナ下で急激に盛り上がり、バブルとも言われるNFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)。アート作品が高額で取引され一躍話題にもなった。ファッションビジネス業界では、バーチャルファッションなどで導入するブランドも登場し、メタバース(インターネット上の仮想空間)との関係性も強まっている。しかし実は、画像や動画などのデジタル資産自体を所有できるわけではない。NFTの良さはどのような点にあるのだろうか。その特性や制作方法、流通の仕組みを見てみよう。
(小島稜子)
基礎編:仮想通貨とは違う?
◇識別子で区別
NFTは、ブロックチェーン技術により発行されるトークンと呼ばれるデータだ。そう表現すると仮想通貨がイメージされるが、大きな違いがある。それこそNFTならではの重要なポイントとなる。
まず仮想通貨は、FT(代替性トークン)と呼ばれ、代替性は置き換え可能とも表現できる。同じ銘柄の仮想通貨の間では、固有のものとして区別された価値はない。現実の通貨と同様だ。例えば、AさんがBさん宛に銀行で振り込んだ100円と、それをBさんがATMで引き出す100円は、もちろん同じ100円だが、物質としては異なる100円玉である。
一方、NFTは、置き換えできない唯一無二の証明書として使える。それを実現しているのが、一つひとつに付与されている、固有の識別子だ。いわばシリアルナンバーのようなものが含まれ、非代替性、つまり唯一性を確保している。
識別子を付与する仕組みとしては、仮想通貨で知られるイーサリアムブロックチェーンの規格、ERC-721が代表的だ。
識別子と共にもう一つ、NFTの非代替性の保証に不可欠な要素が、ブロックチェーン技術の特徴である、事実上の改ざん不可能という点だ。識別子のほかに所有者など記載するデータを改ざんできないことで、NFTの所有者が勝手に変えられてしまったり、流通経路を偽られることはない。よって、持ち主はNFTを所有していることや、所有を通じて得られる権利の正当性を示せる。
◇作品そのものでない
NFTに記録される情報には、作品やメタデータ(対象となるデータの管理・識別に役立つ諸情報)なども含まれる。実際には、作品など対象となるデジタル資産のファイルおよびメタデータのアップロード先であるURLを掲載する事例が主流だ。つまり現状では、ほとんどのNFTは所有したい対象のデータファイルとひもづいているにとどまり、対象ファイルそのものではない。なぜなら、一般的に1枚で数メガバイトを超える絵や写真データに対して、ブロックチェーンに一度に書き込めるデータ容量が少ないからだ。そのため、厳密に購入者が所有しているのはNFTだけだ。
アート作品の場合、JPEGなどの画像や動画ファイルをそのまま書き込みたいが、書き込めるのはレトロゲームのような、1ドット ずつ色を付けるピクセルアートのごくデータサイズの小さな作品に限られるという。大きなサイズのデータファイルは、ブロックチェーン外のサーバーにアップロードする。IFPSをはじめとする分散型サーバーにアップロードし、ブロックチェーンのような分散性を保つことを心掛ける事例も多い。HEARTiの吉田勇也社長によれば、「今後、通信インフラの発達に伴ってブロックチェーンの容量が増加する」ことが期待される。
流通:知識なしでも簡単に参入
NFTの発行には、スマートコントラクトという専用のプログラムが必要だ。一般的には、NFT販売プラットフォームへの出品を通じ、販売に必要な処理とまとめて実施されるケースが多い。この方法だと、ブロックチェーンやプログラミングなどの専門知識がなくても手軽に発行できる。
◇仮想通貨の口座を用意
前提として、仮想通貨の口座が必要となる。NFT購入の支払いに対応できるのは、イーサリアムが主流だ。仮想通貨取引所で口座を開設し、仮想通貨を購入する。審査に1日~数日かかるため、出品より事前に済ませておくとスムーズだ。取得した仮想通貨は、ウォレットアプリに送金する。これで事前準備が完了する。もちろん、NFT化したい対象の元データも忘れずに用意しよう。
出品にはまず、NFT販売プラットフォームにウォレットアドレスなど情報を登録し、アカウントを取得する。次にアカウントにログインした状態で、マーケットプレイスに販売条件を入力する。この時に、著作権の所在や、二次流通での発行者と所有者のロイヤルティーの分配などを設定でき、NFTに書き込んだりひもづけたりする情報となる。最後に、商品となるデータをアップロードすると、NFTが発行されて出品となる。
NFTは、数量限定のバーチャル商品の希少性の証明や、所有者への会員権の付与に生かせる。SNS発信を通じた消費者とのコミュニケーションの重要性が増しているように、メタバースなど次世代のビジネス市場では、NFTがコミュニティー形成に貢献し、消費者の企業・ブランドに対する満足度や信頼度を高める可能性を秘めている。
「ガス代」って何? 手数料は誰に払うの?――今から使える用語解説
◇トークン
原義は「象徴」「証拠」、転じて「商品券」「代用通貨」といった意味で使われる。仮想通貨の発行・流通のために開発されたブロックチェーンにおいて、発行された価値の認められるデータはおよそ全般的にトークンといえる。
◇ブロック
ブロックチェーンは、ブロックと呼ばれる単位でまとまったデータのかたまりが時系列順に連なって構成されている。あるブロックは、ブロック内のデータから計算で求められたハッシュ値という数値で次のブロックとつながっている。
そのため、ブロック内のデータが変更(改ざん)されると、データに基づくハッシュ値も変わり、ブロック同士のつながりにずれが生まれる。そのずれが改ざんの証拠となる。ずれを隠そうとすると、チェーン上の全てのブロックを順に改ざんするという膨大な作業が必要なので、改ざんは事実上不可能と言われるのだ。
仮想通貨の場合は、ブロック内に仮想通貨の取引データを格納している。これにより、トークンの出自や所有者の変遷などが記録され、誰からも見ることができる。
◇ウォレット
仮想通貨やNFTをしまう財布のこと。スマートフォン向けアプリなど、簡単に入手できる形で提供されている。日本では、日本語対応されている「メタマスク」が主流だ。管理者がいないブロックチェーンでは、パスワードを忘れたり外部に流出したりすると所有者はコントロールできなくなってしまう。取り扱いには、細心の注意が必要だ。
◇スマートコントラクト
本来は、ブロックチェーン上に記録されて動いているプログラムの総称。NFTや仮想通貨の話題では主に、売買など契約に関する手続きを自動化するプログラムを意味する。スマートコントラクトは誰もがその内容を確認でき、管理者のいないブロックチェーン上で仲介者なしに取引の信用性を確保している。
一方で、販売プラットフォームごとに用意されたスマートコントラクトがあり、多くのユーザーがそれを選ぶ実情がある。独自にコントラクトを作成し導入することもできるが、10万~20万円の高い手数料がかかるので、現実的に選択肢は狭まっている。
◇ガス代
ブロックチェーン上の取引手数料のこと。仮想通貨の入出金やNFTの売買に伴う所有者情報などの更新には、そのデータの動きを確認し記録する作業が必要だが、管理者のいないブロックチェーンでは、世界中の第三者にその作業を頼っている。ガス代は主に作業者への報酬として支払われるもので、ブロックチェーンの維持に欠かせない。
しかしイーサリアムのガス代は最近だと1回の取引に数千円以上が相場となっており、特にNFTの取引量の増加につれて高騰している。販売プラットフォームによっては、指定のスマートコントラクトを利用したユーザーのガス代を割引や無料とする仕組みを導入し、サービス利用を促進している。
◇デジタルアセット
アセットは「財産」「資産」を意味する。デジタル上の財産としての価値のあるものを広く含む。仮想通貨だけでなく、ゲームにおけるアバターなど、話題や文脈によって想定されるアイテムが変わる。
◇オンチェーン
ブロックチェーン上のこと、またデータがブロックチェーン上に載っていること。対義語にあたる「オフチェーン」はブロックチェーンの外を指す。NFTに含まれるデータの内容などに言及する場合に使うことが多い。NFTアートで画像など作品そのもののデータを含めて全ての情報がブロックチェーン上にある場合は「フルオンチェーン」と呼ぶ。
◇NFT販売プラットフォーム
最大手は、あらゆる分野のNFTを総合的に扱う「オープンシー」だ。しかし、数が膨大で埋もれてしまうため、ハイグレードな美術作品に特化したものや、カジュアルな価格帯に限定したものなど細分化が進む。
購入には以前はイーサリアムなど仮想通貨が必須だったが、最近はクレジットカードが利用可能なプラットフォームが登場しているほか、ガス代の抑制など決済面での利用のハードルが下がりつつある。こうした点での差別化も起きている。
(繊研新聞本紙22年2月15日付)