「苦労して採用したものの、退職したいと申し出があった」と産地企業の経営者は頭を抱える。優秀な人材がすぐに離職してしまうようでは、企業は未来を描けない。繊維製造業では深刻化する人手不足から抜け出すために、多様な人材の雇用強化や働きやすい環境作りが進んでいる。
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働きがいも重視
テキスタイルメーカーの葛利毛織工業(愛知県一宮市)の葛谷聰社長は「当社や毛織物産業で長く働いてもらいたい」と考え、副業を認めている。
同社で働きながらブランドを立ち上げる社員や、ハーブティーの研究をする社員がいるという。異業種の価値観が交じり合うことで相乗効果が生まれ、本業にも良い影響があると話す。
プリント加工の坂口捺染(岐阜市)は残業を基本的になくし、出退勤時間を自由にした。シングルマザーや介護中の人、定年を迎えた人、特別支援学校の卒業生など、個々の事情に合わせた働き方を整える。
最近では〝働きやすさ〟だけでなく、〝働きがい〟も重視する。12月にオープンした古着店で、仕入れたもののそのままでは販売できない古着は、プリント事業のネーム付け作業のために内製化した縫製部門がリメイクを担う。
「シニア層が長く働けるようにと内製化した縫製だが、リメイクした商品が世に出て売れることでモチベーションにもなるのではないか」と坂口社長は期待を寄せる。
長く働けるように
慣習化された「新卒・正社員・男性・日本人」にとらわれず、女性やLGBTQ(性的少数者)、障害者、外国人、高齢者などの多様な属性の人の採用を強化し、様々な価値観を持った人材が活躍できる環境整備が進む。
女性を含めた全従業員の働きやすさを追求し、東レコーテックス(京都市)や、御幸毛織(名古屋市)は管理職としての女性の活躍や従業員のスキル向上、柔軟な働き方をバックアップしている。
同性パートナーを含めた就業規則の明文化やジェンダーレストイレの設置でLGBTQの人も働きやすい環境を整える企業や、障害者就労継続支援B型事業所を工場内に設立する企業、外国人を正社員として雇用する企業もある。
ただ、「失敗が怖くて月に数日しか出勤できなかった」特別支援学校の卒業生や、外国人との文化の違いに苦労する経営者など課題は多い。多様な立場の人が増える分、状況に合わせた柔軟な人材育成が求められている。
(繊研新聞本紙23年12月20日付)=おわり