17年はファッション業界でECの話が出ない日はなかったといっていい。国内ファッション市場に占めるEC比率は1割にも満たないが、企業・ブランドは消費者とネットでの良好なコミュニケーションを重視し、全社組織の連携も深めて、事業成長を目指すことが必須となった。デジタル技術の進展は、AI(人工知能)の進化、物流の仕組み再編を促し、人材活用や実店舗の役割を再考する年にもなった。
◆PDCA回せる組織必須
本紙が9月に発表した16年度の消費者向けファッションEC市場規模は約8300億円(15年度7250億円)で前年度比約15%増、国内ファッション市場に占めるEC比率は8.6%(同7.8%)へと伸長した。
多くの企業で「ECこそ自社成長のための重要販路」との位置付けが定着。体制整備・人員増強、ユーザーの利便性を考えたサイト構築、商品情報と在庫管理の強化で、オムニチャネル戦略を進展させた。自社アプリやSNS(交流サイト)との連動などに力を入れ、PDCA(計画・実行・検証・修正)サイクルのトライ&エラーを繰り返す柔軟な組織体制を作るとともに、アナログ産業からの脱却が成長と停滞を分けつつある。
消費者はスマートフォンを持って、朝昼夜問わず関心のあるコト・モノを検索する中で、購買体験でも「有益な情報の取得」と「自分を理解してくれる最適コミュニケーション」を求めている。客と頻度多く良質なコミュニケーションを取り、自然と自社のECや店舗に来訪してくれる環境を作り、自社が提供する「商品」「情報」「サービス」で、価値あるものを販売して客の悩みやニーズに応えつつ、適確・適時な商品情報提供で客の信頼と安心を得ること、そして収集したデータを分析して、それを基にしたきめ細かいサービスでリピーター化することが、18年も重要になる。
◆物流変革やAIテーマに
ECの成長は、宅配業界の人手不足・配送料値上げといった社会問題も引き起こした。配送料値上げは、倉庫から店舗配送にも範囲が及んだため、物流コスト削減につながる自社物流の仕組みの最適化、自動化・省人化でロボット導入まで検討課題に上がった。また、物流倉庫が店舗に代わって消費者との接点となってきたため、即日配送などのスピード化、手厚い梱包(こんぽう)でのブランド体験など、各社の描く顧客満足度を実現する物流変革が求められている。
IT(情報技術)ツールではAIが脚光を浴びた。自動会話プログラム、画像検索などの機能は、EC作業の支援の役割を果たす。データ分析では、商品店舗配分、店舗接客支援、DMのパーソナライズなどに広がりそうだ。
一方で、実店舗の役割の再考も促した。実店舗でデジタル情報を表示する画面付き買い物カートの導入などもその一例。アナログがデジタルで手が届かないところを補完したり、アナログの良さをデジタルが引き出すといった相乗効果を高める施策が課題となった。