【ファッションビジネス新・成長の条件②】店舗

2019/05/04 06:26 更新


《ファッションビジネス新・成長の条件②》店舗 リアルの役割を再定義する

 アメリカンラグシーは、ビンテージ古着とハイブランド、オリジナルのウェア、家具や雑貨、飲食も手がける米国のライフスタイル型小売りの草分け的存在だ。一時は世界で30店近くまで店を増やしたが、その後一転して店舗数を減らしてきた。理由の一つはEC市場の拡大だがそれだけではない。

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数より話題性

 「米国の1人当たりの小売り面積は23.5平方フィート(2.2平方メートル)と世界で一番大きい」とマーク・ワーツCEO(最高経営責任者)は話す。「90年代以降の小売業者の過剰出店が裏目に出て、チェーン店の閉店、モールの閉鎖が相次いでおり、その流れはまだ続く」。同社は出店拡大による成長戦略に見切りを付けると、リアル店を主力のみに絞り、07年にファーフェッチに出店したのを皮切りにECを本格化した。

 現在は自社サイトとモール2社に出店しており、「ECは2ケタ以上の伸びが続いている」。リアルでは18年、ドバイモールに新たな旗艦店を出した。930平方メートルの店内には接客ロボットを2体導入し、試着室の鏡はタグから読み込んだ商品情報を映し出す。カフェも併設し、週2回、夜になると、本格的な音響設備を使い、ナイトクラブのような演出で客を楽しませる。

 「リアル店はECで体験できないエンターテインメントを提供する場所にならなくてはいけない」(ワーツCEO)。決して安くはない商品をECでもっと売るには、認知を広げ、ブランド価値向上につながるような話題性をリアル店で提供することが大事と考えている。

価値の根拠示す

 ザラ、H&M、ユニクロなどグローバル大手小売りは、依然として旺盛に世界中で出店を続けている。だが、その手法は変化している。好立地の大型店を増やし、そこを起点にEC購入商品の受け取りや返品ができる仕組みを作り、ネットとリアルの買い物体験を継ぎ目無く結ぶ狙いだ。

 スマートフォン片手の買い物が当たり前になるなか、ネットとリアルの連動性を高めることは重要だ。しかし、幅広い客層に手頃な商品を提供するグローバル大手小売りと違い、高単価の商品を売るセレクトショップは、利便性の強化に加え、品揃えや価格の根拠もリアル店を通じて伝えないといけない。

 アメリカンラグシーは、いったんは撤退した日本で昨年9月に伊藤忠商事と組み、ビジネスを再開した。現在はECのみだが、「ドバイのような、エンターテインメント性を盛り込んだ大型店も数店出す」計画という。ジャンルを問わず、ただモノを売るだけの店の数なら、日本市場もすでに飽和しているはずだ。利便性か、人が集うコミュニティーか、企業によって選択肢は異なるが、ファッション小売りの多くは、リアル店の役割を再定義する必要がある。

年間数千万人が来館するモールに出した旗艦店はイメージを伝える役割も(アメリカンラグシーのドバイモール店)

(繊研新聞本紙19年3月28日付)



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