【ファッションビジネス新・成長の条件①】働き方

2019/05/03 06:30 更新


《ファッションビジネス新・成長の条件①》働き方 最適の方法は現場が生む 自ら考え即実践

 3月1日、東京ガーデンテラス紀尾井町のコンビニエンスストア内に、アーバンリサーチが期間限定店をオープンした。7月までの期間限定だ。オフィス棟で働く人々の利用が多いコンビニで、どんな自社商品なら売れるか、探るのが狙いだ。総合店から選抜した販売員と本社のプレス担当がコンビで働く。

経営も出来る人材

 販売員の役割は来店客の反応を見ながら、何が売れるか考え、品揃えに反映すること。服、生活雑貨、食品、自社で扱う商品の何を売ってもよい。反応が鈍ければ入れ替える。品揃えはスタートから2週間で2回変更した。店の声に即対応できるよう、この店専用の商品供給チームも組んだ。

 プレス担当の社員も店頭に立ち、今、消費者が何に関心を寄せているか察知し、店に人を呼ぶ仕掛けを考える。オフィス棟のIT系企業の社員はキャリア志向が強いとの分析から、ニーズの高かった外国語講座や「ペア読書」などのイベントを実施する計画を立てた。その具体化も本社が支援する。

 小さな期間限定店なので、どれだけ売ったかではなく、自分で考えた品揃えで狙った客を店に呼び込めたか、イベントで思惑通りのにぎわいを作り出せたかを評価する。現場の「やりたい」という思いを本社が全面的にバックアップする代わりに、声を上げる店側の人間は狙い通りの成果を出す責任を負う。

 良品計画は今春、本部から店長への指示の回数を減らすことにした。レイアウト変更など当たり前の仕事に関する指示は極力カットして、店長が自分で考えて店舗を運営する場面を増やす。指示を受けて動くのではなく、自分の意思で店舗を運営し、経営のできる人材を育てるのが狙いだ。

 ベーシックな生活基本商品を売る「無印良品」は、ファッション性の高い商品を販売する小売りに比べ、接客に多くの時間や労力を必要としない。だが、立地や天候で売れ行きや売れ筋は日々変わる。店独自の品揃えやメリハリの利いた在庫の持ち方は現場が決め、実行する方が変化に素早く対応できる。

環境は競合も同じ

 ファッション小売りが、商売の最前線である店頭で販売員の働き方を変えようとしている。テクノロジーの発達で業務の効率化が進む。入荷時の検品や棚卸しなどの作業は、ICタグなどを使えば、今や数年前と比べ物にならないほど短い時間と人手で済ませることができる。

 ルーチンワークの大部分はさらに自動化、機械化が進む。これまで以上に接客に専念できる環境が整うが、その条件自体は競合他社も同じことだ。店に立つ人間が変化するニーズを捉え、品揃えや売り場をどう変えるべきか、自分で考え、即実践できる働き方と仕組みを確立できない企業の売り上げは伸びない。

上からの指示を減らし、店頭に立つ人間が自ら考え、客に響くよう日々店を作り変える(アーバンリサーチの期間限定店)

 平成の30年間で日本のファッションビジネスは大きく変化した。オーバーストアが続くなか、ECが伸びている。ネット経由で情報が拡散する速度は上がり、情報量は増えた。そうして得た豊富な情報を起点に行動する消費者に対して、リアルとデジタルを継ぎ目無く結ぶ買い物環境の整備は急務だ。だが、やるべきことはそれだけではない。

 店作りも、人の働き方や育成の方法も、商品作りの仕組みも組織も、新規事業開発の手法も、今までと全く違うものに作り変えなければ、変化の中で勝ち残ることはもはやできない。ファッション小売りの最前線で起こっている動きから、これからのファッションビジネスに不可欠な成長の条件を探る。

(柏木均之/繊研新聞本紙19年3月27日付)



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