美しきペンの物語(若月美奈)

2014/01/27 13:33 更新


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14〜15年秋冬コレクションのトップを切って1月6日から開催されたロンドン・メンズコレクションでの出来事。移動中の車の中で、日本から取材に来たファッションエディターのMさんが、バッグの中をのぞき込みながらしきりに何かを探している。

「さっきからペンが見当たらないんだよね」。

バッグに続き、ポケットなどを探ってもペンは出てこない。取材中にペンがなくて困る経験は幾度もしているので、すかさず声をかけた。

「ペンだったら、スペア持っているのでお貸ししましょうか」。

「いや・・・、そういうんじゃなくて・・・。プラダのペンなんですよねえ」。

「・・・・」。

失礼いたしました。連日全身デザイナーの新作でバシっと決め、ショー会場ではスナップの常連。英国人ジャーナリストからは、「彼は誰?」と聞かれることも多々あるファッションアイコンのMさんは、ペンもデザイナーものをお持ちなのである。文房具チェーンで買った6本入りのお徳用ペンを使い捨てているわたしゃらと同じレベルで考えてはいけない。

ふーん、なるほど。と思いながら、小物ブランドの合同展示会場に入ると、バッグや靴のブランドに囲まれて、見慣れない商品が並んでいた。「AJOTO(アジョト)」というボールペンの新進デザイナーブランドである。

ブランド名は「A JOURNEY TO…」を短くしたもので、日々の暮らしのための美しき道具をデザインするという、作り手の思いが込められている。そう、ジャーニーという言葉には遠くに出かける旅だけでなく、もう少し幅広い意味がある。オフィスに行ったり、友人に逢ったり、1駅地下鉄に乗るのもジャーニー。いや、散歩もそう。毎日のちょっとした出来事がジャーニーなのである。


  
シルバー、ブラック、ゴールドそれぞれの仕上げのものがあり、小売価格は126ポンドから

 

2011年にクリス・ホールデンとティム・ヒギンスの2人のデザイナーがスタート。シンプルなデザインのペンは、クラフトマンシップと最新技術の融合によるものづくりを基本に英国で製造されている。そのこだわりは小さな部品1つ1つにも行き渡り、内外の厳選されたスペシャリストによって作られる。

アルミや真ちゅうのボディーはイングランド南部のイーストワージングで成形し、ロンドンの南西に位置するアルダーショットで加工、イングランド南西部のデボンで陽極酸化処理される。真ちゅう製ツイスト部品はイーストワージングで製造し、ドイツ製のリフュル、タンニンなめしの革をロンドンでレーザーカットしてくったガスケット、ロンドン郊外のアクスブリッチで製造したスプリングとともに組み立てられる。

ポルトガルの工場でつくられたワインのコルクをリサイクルしたトレイと、イングランド北西部のカンブリアで本体をつくりロンドンの北西に位置するバッキンガム州のハイウィカムでシルバーやブラックに仕上げたアルミニウムカバーでできたケースに入り、カンブリアの工場でつくった紙にロンドンの東南に位置するケントでプリントした箱に入る。うーん、ものづくりの行程を追うこともまさにジャージー。こちらは、旅の方。


 
部品を見ているだけでも美しい。ペンに加えて、レザーのペンケースやワレットもある

 

AJOTOのボールペンは、靴やバッグ、アクセサリーと並ぶ男の装身具。もしかしたら、外国の展示会場には他にもペンを作っているクリエーターが参加していたりするのかもしれないが、ロンドンでははじめて出会い最初は意外に思ったデザイナーズペンは、ファッションアクセサリーの1つとして展示会場に違和感なくとけ込んでいる。

「でも、どうしてボールペンをつくろうと思ったの?」。単純な質問をなげかけると、クリスは待ってましたとばかりに答えた。

「何かをクリエートする時、人はまずペンでかくことからはじめる。ペンを手にすることはすべてのはじまりさ。ペンさえあればiPadなんていらないんだよ」。



あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員

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