タビオの越智直正会長が不慮の事故で亡くなり、はや四十九日も過ぎた。先日の越智勝寛社長の取材は、遺影の飾られた部屋。もうあの愛媛弁を聞くことはできない。柱石を失ったタビオの社員の思いや懐かしい記憶が頭をかすめ、普段通りには取材ができなかった。
靴下の品質に関しては本当に厳しい人だった。ある時、越智会長がチェック済みの靴下を社内で持ち歩く人がいた。ふと見た越智会長は「その靴下は前と違うのでは」と問う。調べると、確かにチェック後、わずかな修正を施したらしい。何メートルも離れた場所から修正箇所を見抜いたわけだ。
そして、人情にあつい人だった。20年程前になるが、取材の途中に不意の来客があった。「何か大変なことらしい。悪いが30分だけ中断してええやろうか」。詳細は不明だが、資金繰りの相談に来た人らしい。「わしにもう少し力があれば、助けてやれるんやけど…」。いつになく寂しそうな表情を今も覚えている。
同社は今、SNSで話題になったものをすぐに商品化し、ユーチューブや店頭のデジタルサイネージと連動させたOMO(オンラインとオフラインの融合)戦略を加速中だ。機敏に増産や切り上げができるのは、越智さんが築いた国産ネットワークならでは。時が過ぎ、人は去っていっても、DNAは間違いなく残っていく。