ここ1、2年「センス・メイキング」という言葉を聞くようになった。70年代にアメリカの学者によって紹介された概念だそうだが、最近の広がりは、そのままタイトルにした書籍が話題のためだ。デジタルの時代にもてはやされる理系の知識や人材も万能ではないと著者は言い、本のサブタイトルには「本当に重要なものを見極める力」とある。
著者が戦略コンサルタントのためか、ビジネス転用の有用性を指摘する声が多い。「意味づけ」みたいに訳されるが、少し分かりにくい。
どこかで、こんな話も読んだ。例えば、駅の売店でガムが売れない時に、味の嗜好(しこう)の変化を原因とすると見誤ってしまう。実はスマートフォンの普及が原因では――と、ある経営者は仮説を立てる。目の前で起きている事象をしっかり見て自分で考えること、これがセンスメイキングの要諦だと。
ここまで書き、ある海外ブランドの日本人経営者に昔聞いた話を思い出した。パンプスがキラーアイテムのそのブランドの価格について聞くと、競合ブランドではなく当時人気だったiPadの価格と比較していると答えた。不思議な感じがしたが、消費者の気持ちに立って考える眼識の持ち主だったのだと感心する。
もっともらしい答えや説明を安易にうのみしてはいけないのは記者の仕事も同じ。肝に銘じたい。