《めてみみ》「時は金なり」

2020/10/28 06:24 更新


 広島県の山中で古びた塔を発見した。高さは9メートル近く、下部がコンクリート造り、上部に小さな鐘楼が乗っており、説明板には「時報塔」とある。当初は鐘を鳴らして時を知らせていたようだが、現在はサイレンを鳴らしているらしい。

 壁面には「定時励行」「時間節約」「時ハ金」のスローガン。三つ目は「時は金なり」の意味か。100年近く前、村の在郷軍人会の依頼を受け、米国在住のこの村出身の有志が寄贈した鐘だと記されている。想像するに、規則正しい軍隊生活を経験した人々が、村人にも時間厳守の生活習慣を定着させようとしたのだろう。

 時は大正末期。日本全体で工業化、都市集中が一気に進み始めた時期だ。皆が時間を厳守しながら勤勉に働き、欧米の〝先進国〟に追い付こうとした。緩やかに時が流れていただろう農村の生活も変わっていったに違いない。その後、第2次世界大戦、戦後の経済成長と時代は変遷したが、基本的には右肩上がりの経済成長を追い求めてきた。

 そして今、コロナを機に、生活様式や価値観が大きく変わると言われる。時間に追われ、効率化を追求する働き方や生き方の見直し、大都市集中から地方への分散など、新しい考え方も生まれてきた。塔を見上げながら、「時間を大切に」という言葉の中身が大きく変わりつつあることを感じる。



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