《めてみみ》京のいけず

2020/02/07 06:24 更新


 京都・山科に毘沙門堂というお寺がある。創建は789年だから、かなりの歴史だ。皇族が門主を務める門跡寺院となり、その後も徳川将軍家の庇護を受けて繁栄した。大きな観光地から離れていることもあり、桜や紅葉の時期を除けば観光客もそう多くない。

 見どころの一つが狩野派の画家が描いた襖(ふすま)絵。逆遠近法という手法を用い、鑑賞者が左右に動くと絵の机の形が変わる「動く襖絵」などがある。多くの名作の中に、一風変わった絵が残る。梅と山鳥、竹とコマヒヨドリを描いた絵だ。

 襖絵に描かれるのは一般的に、梅にウグイス、竹にスズメの組み合わせだが、この襖絵は「木に鳥が合っていない」を意味する。会いたくない客が来れば、まずこの部屋に通して待たす。来客が襖絵を見て、「鳥合わない」、つまり「あなたは取り合わない」のメッセージを理解できれば良し、理解できない田舎者なら、いつまでもこの部屋で待たせたのだとか。

 京都の意地悪を象徴するような話だが、笑ってもいられない。少子高齢化が進み、国を引っ張るような産業も数えるほどになった日本。お金を落としてくれる、ありがたい訪問客は、誰であれ歓迎せねばならない。もう観光客は来てほしくないとか、あの国の人はマナーが悪いとか…。こんな「いけず」を言っている余裕はなくなってきた感がある。



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