丸井グループ 渋谷モディで3社共同プロジェクト 誰もが買い物を楽しめる空間作り

2022/05/09 06:28 更新


 丸井グループは、社内でアニメ事業や証券事業など新規事業を立ち上げる一方で、スタートアップ企業への投資や協業による外部とのイノベーション創出を推進してきた。そのオープンイノベーションのモデル事業の一つとなるのが、丸井の渋谷モディ、オーダーメイドビジネスウェアのDtoC(メーカー直販)ブランドの「ファブリックトウキョウ」、知的障害のあるアート作家を起用したライフスタイルブランドの「ヘラルボニー」による協業だ。3社のシナジー効果の創出を通じて〝誰も取り残されることのない社会〟の実現を目指す。

(松浦治)

オープンイノベーション

 スタートアップ企業とのオープンイノベーションはこれまで、成功事例が少なく、企業風土をはじめとした社内・社外の垣根を乗り越えることが難しかった。丸井グループは、約40社のスタートアップ企業と協業し、投資先との協業の実行化までの効率化や責任と成果を追求するために、200人の社員から成る共創チームを設置し、グループ全体で投資先、協業先との共創のプラットフォームづくりを加速させている。今回の3社の協業はその一環で、インクルーシブ(包括的)な社会の実現に向けた協業プロジェクトの一つとなる。

 丸井グループは19年にファブリックトウキョウ、21年にヘラルボニーと資本業務提携している。渋谷モディは「ダイバーシティ&インクルージョン」をテーマとしたリニューアルを機に新たな協業を始めた。年齢や性別に関係なく、高齢者、障害のある人、外国人やLGBTQ(性的少数者)の人など、全ての客に楽しく安心して買い物してもらう商業施設づくりに着手する。

バリアフリーに進化

 目玉の一つはファブリックトウキョウが渋谷モディ4階で18年から運営し、3月17日にリニューアルオープンした「オールジェンダーストア」だ。これまでの性別を問わずサービスを提供することに加えて、車椅子でも安心してオーダーメイドが楽しめるバリアフリーの店舗へ進化させた。設計にはパラアイスホッケー元日本代表の上原大祐さんが加わり、車椅子で出入りができる動線を整えたり、試着室の天井に鏡を付けて横になった状態で全身をチェックできるようにした。これまでの商業施設では車椅子で入れる試着室がほぼなかったので、今回の車椅子仕様は国内初の試みとなる。

障害者も安心してオーダーメイドを楽しめる(ファブリックトウキョウ「オールジェンダーストア」)
オール・インクルーシブな店舗を目指しバリアフリーへ進化した「オールジェンダーストア」(ファブリックトウキョウ)
車椅子でもスムーズな出入りや着替えができる試着室を完備
横になった状態で全身をチェックできるように天井にも鏡を設置した試着室

 もう一つは、知的障害のあるアーティストの作品を手掛けるヘラルボニーとの協業となる。契約する3人の作家によるアートを裏地に使用したジャケットを製作し、予約販売を始めた。

ヘラルボニーが契約する3人の作家によるアートを裏地に使用したジャケット

 渋谷モディはファブリックトウキョウの改装に合わせて、障害を持つ人をはじめ、誰でも使いやすい「みんなの試着室」を4階に新設した。さらに店内通路へ点字ブロックやトイレまでの距離表示看板の設置など様々なユニバーサルデザインを取り入れて、全ての人が使いやすい店内環境を整えていく。

 隣接区画にはヘラルボニーが内装をプロデュースしたインクルーシブな取り組みを発信するイベントスペース「カレンダリウム」を新設。イベントの第1弾はヘラルボニーの期間限定店を4月27日まで開いている。

 社会貢献という理念が共有できても実際のビジネスでうまくいかないことは少なくない。

 ファブリックトウキョウの店舗で採寸した体形データがクラウドに保存されることで、以降はオンラインから注文できる事業モデル、「売らない店舗」と呼ばれるオンラインとオフラインを融合させたOMOモデルによるデジタルの活用、在庫を持たない完全受注生産などを通じて、様々な二項対立を乗り越える。社会課題の解決と本業で利益を稼ぐ企業活動を両立させる。協業による新規事業の創出で互いの企業の成長に結び付ける。

インクルーシブな取り組みを発信するイベントスペースを新設(渋谷モディ)
ヘラルボニーの期間限定店を4月27日まで開いている(イベントスペース「カレンダリウム」)

■ヘラルボニー

福祉を起点に多彩な事業

 丸井グループとヘラルボニーの出会いは、21年2月に開催したピッチイベントだ。スタートアップ企業から事業アイデアを募集し、採択された企業に投資・成長支援するプログラムで、その第1回目でヘラルボニーは、応募総数35社の中から優秀賞、オーディエンス賞を受賞した。その後、新たな提携クレジットカード「ヘラルボニーエポスカード」を発行するほか、顧客とヘラルボニーの接点になるイベントの開催や、店舗の売り上げの一部を社会の力に変えていく「社会還元デー」の実施など協業を広げてきた。ヘラルボニーは「異彩を、放て。」をミッションに、18年に創業した福祉を起点に新たな文化をつくることを目指す福祉実験ユニット。日本全国の障害のある作家とアートライセンス契約を結び、2000点以上のアートデータを軸に作品をプロダクト化するアートライフブランド「ヘラルボニー」、建設現場の仮囲いに作品を転用する「全日本仮囲いアートミュージアム」など、福祉領域にとらわれない多様な事業を実施する。

(繊研新聞本紙22年4月8日付)

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