岡山県出身のファッションデザイナーは多くありませんが、わずかながら業界のど真ん中で活躍している若手の方々がいます。その一人ひとりが存在感を増していると感じるこのほど。一方、出身地である岡山県には、彼ら彼女らのブランドの取扱店が不在で、実際に見て触れる機会すら無いケースがほとんどです。かねてからこうした現状に幻滅を覚えていましたが、今秋、岡山県出身の西坂拓馬氏が手がける「kujaku」(クジャク)が岡山市内のセレクトショップ「VICICA」(ビシカ)で取り扱いを開始しました。今回は、同ブランドの紹介と共に、デザイナーと故郷の関係性について私見を書きたいと思います。
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東京で育まれる
西坂氏がクジャクを立ち上げたのは、地元の服飾専門学校に在籍していた時で、その頃に『プラグマガジン』に載ってもらってからの縁があります。その後、同氏は学校を中退して単身上京。資金やコネクションがゼロ、業界のイロハも知らない状態から活動をスタートしました。開業したセレクトショップ「Clique Tokyo」(クリークトウキョウ )で寝泊まりしながら服作りを続け、コレクションを引っ提げて全国を行脚。欧州にも持ち込み、とにかく見てもらうことに躍起だったと言います。
並行して、彼の店にはモデルやスタイリストなどを目指す若者が集うようになりました。西坂氏のパッションに引き寄せられるように、上昇志向の若者たちのコミュニティーが形成されていく様子を私も目の当たりにしています。こうした仲間に支えられながらブランドの素地を整え、クジャクの本格始動から今年で10年目を迎えました。
日本の被服職人の繊細な感性と技術を結集した服作り、それらを追求することで宿る細部のディテールこそがブランドの根幹である「日本人らしさ」のゆえん。現在は、全国の硬派なセレクトショップを中心に販路を広げ、「服好き」から支持を集める独自のポジションを確立しています。
「ステートメントをことさらに発さず、パブリックな存在であること。ファッションデザイナーというよりも、クリエイターでありたい。ただ、作り手としてのエゴよりも、今は守るべき家族やスタッフのために、という思いの方が強いです。そういった意味でも、地元岡山での新たな取り扱いはうれしいことではありますが、宿願だったというわけではありません。ビシカを始めた旧友である森氏とのリレーションシップの一つの形だと思っています」
同郷の〝ワーク〟を
クジャクの成長に「岡山」は何ら関与しておらず、デザイナー自身が地元に頼ることも、特別な意識を向けることもありませんでした。有名無名に関わらず、岡山県出身デザイナーが作った服や地元ショップのオリジナルアイテムなどを積極的に取り入れるのが私の流儀(無理にでは無くもちろん着たいから)ですが、これはごくごく私的なこだわりに過ぎません。
しかし、スポーツや芸能などと同じように、地元出身者を応援する気運が服飾の分野でも高まることを望んでいます。それは、「同じ地元」という共通項がもっとワークすれば、お互いと地域にとって良き反応を生んでくれる気がするからです。