晃立の学生服プリーツ、ジーンズ洗い加工工場 両軸で安定経営、柔軟な人材配置

2020/05/04 06:28 更新


【ものづくり最前線】晃立の学生服プリーツ、ジーンズ洗い加工工場 両軸で安定経営、柔軟な人材配置 ジーンズ分野へ技術の応用も

 晃立(岡山県倉敷市)は、学生服のプリーツ加工やプレス加工の工場を持つ一方で、ジーンズ洗い加工の工場も持った稀有(けう)な存在だ。「地元(児島)の地場産業である学生服とジーンズを支えたい」(藤川由典社長)強い思いから、両軸の工場経営を貫いている。学生服のプリーツ加工で安定した受注を実現。二つの異なる工場があるからこそ、実現できる物作りもジーンズカジュアル分野には少なくない。それぞれの繁忙期が異なるため、互いに人材配置も臨機応変に行っている。

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 同社は65年に晃立プリーツセンターとして創業。パンツのプリーツ加工に加え、80年に女子学生服のプリーツ加工も開始した。一方でジーンズの洗い加工は71年に開始し、ジーンズの産地として知られる児島で初めてジーンズの製品加工を行っている。

 現在、工場は三つあり、児島にはジーンズ洗い加工を中心とした第1工場、学生服のプリーツ加工やプレス加工が主の小川工場がある。小川工場はプリーツとプレスで分散していた工場を12年に1カ所に集約した。

■プリーツは学生服特化

 小川工場では学生服のプリーツ加工が日産2500~3000点弱のペースで稼働。2人1組で素早くスカート地に特殊な型紙を上下から挟み込み、成型真空熱処理でプリーツ加工を行う。プリーツセッターは計3台。19年の設備更新で新たな窯を1台導入したことで、加工にかかる時間を削減した。

特殊な型紙などでプリーツをかけた学生服スカート地

 プレス加工は学生服をはじめ、パンツやワーキングウェアなどのプレス仕上げをしている。股下、股上、上着、肩などの専用設備が充実。特にウール製品は一度プレスするとやり直しがきかないため、熟練スタッフが腕を発揮している。

 プリーツ加工の方は学生服に特化し、大手学生服メーカー3社と取引している。「カジュアルアイテムのプリーツ加工業者はこの10年間で大きく減ってしまったが、学生服に特化したことでその波に飲み込まれなかった」と藤川泰志専務。一方でジーンズの洗い加工はトレンドによって受注が変動する。学生服のプリーツ加工は、安定した受注が見込める事業になっている。

充実した設備が揃うプレス加工

■手間が違いを生む

 ジーンズ洗い加工の第一工場は、日産約3000本で稼働している。量産用のワッシャーは14台を揃えるが、インディゴ染料を使用したデニム製品用と、製品染め用を厳格に使い分ける。大型のワッシャーが多いが、ヘビーオンスデニム製品には落差のない遠心分離機を活用するなど、長年の経験をもとに自社で的確な物作りを選択する。

ワッシャーを多数揃えるジーンズの洗い加工

 例えばストーンウォッシュによるアタリ感、ワンウォッシュでもデニム特有のハリ感を重視するお客(ブランド)には、タンブラー乾燥は行わず、自ら天日干しを用いる。工場として手間はかかるが、これが仕上がる製品に違いを生む。他工場できれいに染められなかった合繊系素材の製品も、「長年積み上げた経験と工夫」により、きれいに染め上げる。

 プリーツやプレスの加工技術を、そのままジーンズカジュアルに応用する発想も同社の大きな強みだ。例えば撥水(はっすい)加工をカジュアルアイテムに応用し、セレクトショップで年間4万枚の販売実績のある商品がある。カジュアルできれいめのニーズが広がる時は、小川工場と連携してデニムアイテムなどにセンタープリーツも加えることが出来る。綿製品にしっかりプリーツをかけるノウハウも持つ。「洗い加工を目的に来てくれたお客には小川工場も見学してもらう。そこから技術の応用が生まれることもある」

 工場の従業員数は小川工場が70人以上、第1工場が約40人。お互いに繁忙期がほぼ逆で、距離が近いので、人材の行き来も柔軟に行い、生産効率を上げている。年齢を重ねたスタッフは、体力が必要な第1工場から小川工場に異動もしており、適材適所で長く働くことも可能になっている。

ニーズをくみ取って行うジーンズ天日干し
「両工場があるからこそできる物作りもある」と藤川専務

《チェックポイント》洗い加工の排水再利用へ

 ジーンズの洗い加工を行う第一工場では、サステイナブル(持続可能)な提案や取り組みを積極的に進めている。

 20年春夏物から、特殊な薬品を利用した「フレンズ加工」を提案している。従来のストーンウォッシュに相当する加工を、石を使わずに実現したものだ。ストーンウォッシュは石が擦れて砂が発生し、産業廃棄物が生まれるが、それをなくすことが出来る。ストーンウォッシュだと生地が傷みやすかったカットソーアイテムにも活用しやすく、加工の引き合いが増えている。

 20年3月には、洗い加工によって出る排水を再利用する装置も開発した。これまでの排水処理だと、再利用するには透明度が不十分だったが、四国のコンサルティング会社と協力し、特殊なろ過装置を完成した。今夏をめどに新装置を稼働する。ワンウォッシュやストーンウォッシュ、ブリーチなどすべての洗い加工について排水を再利用し、水の使用量を大幅に削減していく。

《記者メモ》かゆいところに手が届く

 同社は子会社にジーンズカジュアルメーカー、ステュディオ・ダ・ルチザン・インターナショナル(大阪市)を持ち、79年から「ステュディオ・ダ・ルチザン」を展開。母体は工場だが、いち早く自社のブランドビジネスにも着手した。

 洗い加工の工場を見学した際、様々な場面で自然と相手(ブランド)側の望むイメージに合わせた物作りや工夫をしているのを見た。こうした要所での〝気付き〟は自社ブランドを持っていることが大きいのでは、と感じた。

 別工場では学生服のプリーツ加工やプレス加工も行っている。ジーンズカジュアルとはジャンルが異なるが、この別工場があることで、ジーンズカジュアルで新しいアプローチの物作りも生まれている。物作りに様々な角度の視点を持っており、かゆいところに手が届く工場としてのイメージが膨らんだ。

(小畔能貴)

(繊研新聞本紙3月25日付)

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