少ない「交通安全お守り」
中国からのインバウンドが順調に回復してきている。日本政府観光局の発表では24年4月単月では19年比で7割近くにまで回復、中国版インスタグラム「小紅書」(RED)でも、日本観光を楽しむ若者の姿が数多く投稿されている。
そんな中国SNSの口コミから読み取ると、「東京」に「大阪」、「温泉」「富士山」など、なじみの場所が浮かび上がるが、面白いのが「神社」「大社」などのワードだ。中国人観光客は実は神社仏閣にもよく回る。一部の若者は神社で二礼二拍一礼の作法も知っていたりもする。有名な神社の鳥居やお寺の前で記念撮影すると「日本に来た」感が増すのだという。そして忘れずにゲットしていくのが「お守り」である。
小紅書で「日本のお守り」の口コミを調べると、件数は決して多くはないが、増加傾向にある。さらには訪れた神社やお寺で受けたお守りとともにSNSにアップをする例もある。
キーワード分析で人気ナンバーワンは現在のところ「浅草寺」で、「清水寺」と肩を並べる。「商売繁盛」といったワードも上位に見える。「恭喜発財」という富をもたらす言葉が春節のあいさつになる習慣に通じるものがある。ただ、中国には「学業成就」「交通安全」「健康第一」といったお守りがあまりないため、非常にありがたがられる様子だ。特に「良縁」(縁結び)なども人気が高い。
微妙な位置付けの宗教
しかし、「神社仏閣」や「お守り」と合わせて聞くと、中国ウォッチャーとしては少し複雑になる。実は中国での宗教活動は非常に微妙だ。お寺や教会、道教の道観、モスクなどは禁止されていない。崇拝者も多いが、同時に国の厳格な管理の下に置かれているのである。さらに言えば、中国共産党員の場合、規則の「党章」には、「党員は共産革命に全てをささげるため、その他の宗教を信仰してはいけない」とあるのだ。
そんな中国で日本のお守りを持っていても大丈夫なのだろうか。中国の友人に話を聞くと、「だってあれ、お寺や神社のグッズでしょ?」という答え。そう言えば「ブレスレット」というキーワードを思い出した。「ブレスレット型お守り」といえば東京の阿佐ヶ谷神明宮のお守り、日本国内でも人気が高い。SNSを通じて中国消費者に〝販売〟しているソーシャルセラーも見かけたことがある。
彼らにとっては宗教的なものというより、「神社やお寺というスポットが出す、自分の願いを込められるおしゃれなグッズ」なのである。宗教のくくりではなく、「願い事を託せるグッズ」として異国の観光客に受け入れられている。宗教上の是非はあるかもしれないが、温かく見守ってほしい。
(中国トレンドエクスプレス編集長・森下智史)