中国ビジネス4つの罠③「人材の罠」(田中宏高)

2016/11/07 11:27 更新


こんにちは。合同会社T&Lコミュニケーションズの田中宏高です。引き続き「4つの罠」について説明します。今日は3つ目の罠、「人材の罠」についてです。

中国人には優秀な人がたくさんいます。ただ、急激な経済発展と世界中の企業が中国に進出すしているため、優秀な人材の取り合いになっています。また、ビジネス環境も急激に高度化していて、より優秀な人材が求められるようになってきています。

結果として、優秀な人材がますます必要になっているのに、優秀な人が自分の会社に来る確率が急激に下がっています。そういう意味で、中国は深刻な人材不足です。その原因のひとつは「教育」です。



1.急激な発展のため教育が追いついていない

2.社会主義教育のための歪

3.大学生と留学生の問題

4.転職と社内教育の問題

 

 

 

1.急激な発展のため教育が追いついていない。

急激な成長なため、人材教育が追いついていません。教育の前に、教える人自体が不足している状態です。

 

2.社会主義教育のための歪。

不足しているのは、知識や技術の教育だけではありません。もっと基本的な「自由経済社会の教育」が大きく不足しています。

一般的には社会主義の教育を受けています。つまり、「個人の権利を守る(主張する)」、という教育は受けていますが、「会社の目的は何か?」「仕事とは?」「権利を守るのためには義務と責任を果たさなければならない!」などの教育が不足しています。

もちろん、このようなことをわかっている人はたくさんいます。でも、そういった人たちは、自分で起業する人が多いですし、または特に欧米や国営の大企業に行く傾向が強いです。

 


 

3.大学生と留学生の問題

幹部となるべき大学生と留学生にも構造的な問題があります。

①大学生急増

1998年に「21世紀に向けた教育振興計画」発表されました。1998年の大学進学率9.8%を2010年までに15%に引き上げる、としたものですが、2002年の段階ですでに15%に、2010年には26.5%(日本でも同じことは言えますが・・・)。数が増えればレベルは下がります。教授・教師が大幅に不足しているはずです。

そうなると、もちろん優秀な人はたくさんいますが、なかなか見つかりません。「日本語が話せる」ということを選考基準の上位にしているとなおさら優秀な人と会う確率は下がります。

②留学生の欧米化

以前は、優秀な人が留学先として近くて安い日本を選ぶことが多かったと思います。ただ、近年は親が資金面で余裕があることもあり、欧米に留学する人が増えています。優秀な人ほど欧米に行きます。また、①の大学生と同様、留学生の数も増えすぎて全体的なレベルも下がってきていると思います。

日本企業にとっては、日本への留学する中国人のレベルは重要なポイントです。 

4.転職と社内教育の問題

ご存知の方も多いと思いますが、中国は転職が多いです。「転職=キャリアアップ」という考え方が一般的です。ただ、企業側からすると、「すぐやめてしまう人に教育しても無駄」と考えてしまいます。現状は、「教育して育てる」というよりも「もともとできる人を中途採用」という対応になっています。

結果、日本では新入社員のときに行われる社会人としての基本的な教育が不足しています。

 このような人材不足のために、「頼む相手がいない」「頼んだ相手を間違えていた」という残念な結果になってしまいます。

 対応策は

1.人材レベル(質・量)に合わせた中国事業展開計画を立てる。

2.中国人の権限をゆだねる、という「現地化」ではなく、基本的な能力をもっている日本人が中国でも戦っていけるようになる「日本人の現地化」を進める。中国人が人材不足なのであれば、日本人で補うしかないです。

3.社内教育の充実。もちろん給与面での改革も必要。

 今日のまとめ

「中国事業は教育事業」




田中宏高 たなかひろたか 合同会社T&Lコミュニケーションズ代表社員。72年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、アパレル商社に在籍。退社後、単身中国にわたり、ローカルの縫製工場で勤務。その後、上海にて百貨店の立ち上げプロジェクトに参画。同時に、販売現場の運営管理を経験。その後、独立。日中のファッションビジネスの経験を生かして、コンサルティングのみならず、中国進出日系企業支援、OEM生産、イベント開催、関連サイト・アプリケーションの立ち上げなど多岐にわたって活動中。著書「ビジネスで中国人に負けない本」(アスペクト社)



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