ECが生んだ流通革命 クイユ「最高品質を低価格で」

2017/06/19 04:24 更新


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「最高の品質を低価格で売るクイユの挑戦」

ECが生んだ流通革命、ブログで消費者と繫がる

 ハンティングウェアとバックパックを主力とするクイユは、カリフォルニア州立大学デービス校から北へ車で10分、ディクソンにオフィスを構える。「EC発のメーカー」として同社を創業したジェイソン・ヘヤースタン社長がブログでユーザーと会話し、「最高品質の商品を店に卸す価格で消費者に提供したい」という思いから始まった。

 ECを主販路に、初年度の11年度に200万ドルだった売り上げは倍々ペースで伸びて昨年度は4830万ドル。SNS(交流サイト)の普及が生んだECによる価格と流通の革命でもある。

ジェイソン.ヘヤースタン創始者社長

■商品価値を消費者に還元、素材の機能性と工場の透明性を伝達

 「クイユ」という名はアラスカ南東部に浮かぶ12人が居住する小さな島に由来する。へヤースタンさんは初年度、商品を発売する90日前から素材や縫製の現場など商品の全てをブログで紹介し、発売日には50万人がアクセス、45日間で完売してしまった。

 通常、米小売業のマークアップは2倍以上。例えばメーカーが100ドルで小売店に卸した商品は200ドル以上で売られる。「それを消費者に直接100ドルで届け、商品価値を消費者に還元する」という流通の青写真に初めは銀行も半信半疑だったという。素材調達と縫製の95%近くを担う東レインターナショナルの担当者はクイユについて、「始めは少量だったが4年間でまたたく間に大きくなった。価格がネックになって他社が使いこなせないような最も新しい開発素材を積極的に使用してくれる、メーカーにとって嬉しい相手」と語る。

 父親の影響で子供のころからハンティングに行くのが大好きだったというヘヤースタンさんがハンティング用品のメーカーを始めたのは今回で2回目。デービス校卒業後、95年からNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)で活躍するが、96年にトレーニング中に首の骨を折って断念。不動産セールスなどを続ける中、店には好きなハンティング用の服が十分揃っていない、自分が情熱を持てる仕事をしたいと05年に始めた最初の会社が「シトカ」。

 06年にラスベガスの展示会、ショット展に出展したが注文は1社からのみ。1万ドルの注文に対し、工場のミニマムロットは20万ドル。リスクを取って20万ドルの在庫を持ち、カタログに載せた商品が売れて一晩にしてメーカーは成功。しかし09年に、資金繰りなどもあり、ハイテク素材のゴアテックスに会社を売却した。

 シトカを離れた後も、店頭に出ている多くの商品に失望していたヘアースタンさんは、パタゴニアから、「価格は高いけれど最高のハイテク素材を作る東レ」を紹介してもらった。「消費者に高品質の物を売る方法は無いか」と模索し、週1回ブログでユーザーとの会話が始まった。18カ月をかけて世界にある東レの縫製工場を巡り、労働条件と環境を自分の眼で確認、工場の透明性を消費者に伝えた。全てのブログに返答し、1年半のデータを商品に反映させた。SNSという時代の波が彼の思いに合致したのも幸いだった。

本社

■悪い時ほど新規企業のチャンス

  非営利組織のCSF(コングレショナル・スポーツマンズ・ファンデーション)の調べによると、11年度の米の16歳以上のハンティングの競技人口は1370万人。フィッシングを合わせた競技人口の合計は3740万人で、その経済効果は900億ドル。ライセンス代やスタンプ(米環境庁が発行する切手)などで30億ドルが環境保護に寄付される。日本では馴染みの無いハンティングだが、ワイルドライフ(野生生物)のプロがマネジメントし、限定地域で限定期間に解禁されるスポーツで、ヘヤースタンさんも物心ついた頃から父と一緒に参加した。

 11万人の顧客を持つクイユのウェア、スリーピングバッグ、テント、イタリア生産のブーツは主にECで販売されるが、本社の隣には小売店舗があり、年間300万ドルの売り上げがある。さらに、大きなバン(車)にショールームを設置、全米26地域を巡回し、各地域に2日半滞在してトランクショーで販売する。年2回開催する午前9時~午後10時のガレージセールには朝7時から人が並ぶ。今年の売り上げ目標は5000万~6000万ドル。

ショールルーム兼小売店舗

 プライベートエクイティの資金も入って、ハンティング人口700万人の欧州に進出する。ヘアーストンさんは大の日本刀ファンで、物作りや長い信頼関係を大切にする日本文化を尊敬する。今年の米小売市場は店舗閉鎖や連邦破産法の適用申請、M&A(企業の合併・買収)で20年来の大きな転換期にある。「この先、日常品はアマゾンなどのPBで、それ以外は、品質やクリエイティビィティーのあるスペシャルブランドのみが生き残ることができると思う。時期が悪い時ほど新規企業が活躍するチャンスがある」と語る。

【サンフランシスコ=立野啓子通信員】


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