「さあ、これから」という時期に有望な社員が転職してしまった――新卒の半数が1、2年で辞めている。人材の獲得・確保は、多くの企業にとって喫緊の経営課題だ。本連載(全10回)では、「労働市場ブランディング」をテーマに、企業が人材から選ばれ続けるためのポイントをお伝えする。
(リンクアンドモチベーション 採用コンサルティング部門責任者 石井悠)
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「労働市場」とは、労働力を供給する人材と、労働力を求める企業が取引をする市場のこと。これまでのアパレル企業は、顧客から選ばれるために商品市場でのブランディングに力を注いできた。だが、持続的な成長には、労働市場で選ばれるためのブランディングが不可欠だ。 今なぜ、労働市場ブランディングが必要なのか。その背景には、労働市場における三つの大きな変化がある。
辞める前提の若手社員
一つ目が「激戦化」だ。少子高齢化により日本の生産年齢人口は減少の一途をたどっている。20年比で、30年には約9割、40年には約8割になる見込みだ。今後、企業間の人材獲得競争の激化は明らかだ。二つ目が流動化だ。転職が当たり前の時代、「ファーストキャリア」という言葉が一般的になっており、「いつか辞める前提」で入社する新入社員も多い。
三つ目が透明化だ。SNSや社員クチコミサイトの普及により、企業の内情はオープンになった。実態をともなわない、外面だけのブランディングは通用しない。
こうした環境変化により、企業が労働市場で選ばれ続けることは、かつてないほど難しくなっている。本腰を入れて労働市場ブランディングをしなければ、「人材不足から事業の存続すら危うくなるのでは」と危機感を抱く経営者も多い。
〝ジャイアントキリング〟実現
もっとも、労働市場ブランディングには企業にとっても大きな魅力がある。それは「労働市場のブランディングに成功することで、商品市場で〝ジャイアントキリング〟を実現できる」ということだ。つまり、仮に今事業で競合に後れをとっていたとしても、労働市場で強い企業になれば、業界の勢力図を一変させられる可能性がある。
「成果をあげている組織には、優秀な人材が集まる」と思われがちだが、実際には逆の場合も多い。例えば、リクルートは知名度が低い時代から労働市場ブランディングに投資し、「起業家輩出企業」として認識されるようになった。その結果、優秀な人材から選ばれ続け、成長を実現している。
優秀な人材から選ばれるようになれば、事業でも勝てるようになる。これからの時代においては、事業の成功が労働市場でのブランド価値を高めるのではなく、労働市場ブランディングの成功が事業での価値創出につながるのだ。人材不足を解消するためだけでなく、事業で飛躍を遂げるためにも、労働市場ブランディングに注目してほしい。